始まりの一歩
固く一歩踏み出すと足へ衝撃を伝えてくるレンガの石。
柔らかくポカポカとした光を放つお日様。
ざわざわと話し声を交えてもなお、ざぁざぁと壮大な音を鳴らす噴水。
私はこれだけで満足してしまった。なんたって、私は今ここに立っているのだから。
あぁ、なんて素晴らしいことだろう。このように世界を感じているのだから。あぁ、なんて楽しいのだろう。私が求めていたこの感覚を得ることができたのだから。
一歩。また一歩と足を踏み出すたびに、私はこの世界に、そしてこの人ごみの中に存在することを実感できてしまうのだから。
--ドンッ
ーーー失礼。後ろからの急な衝撃とともに前へへたり込んでしまった。
手をつきざらざらとしたレンガに触れ、私は呆然と手を見つめる。
ゆっくりと立ち上がり、もう一度何気なく手を見つめると私は心への大きな衝撃とともに抑えきれない笑みを漏らした。現実と遜色のないじんわりとした熱をもった痛みに感動したのだ。
最初は全く信じてなかった。どうせ噴水の音はちゃっちぃのを使っているのだろうと。床は目に見えるレンガに対してすべすべとした感触なのだろうと。そもそも日の光の暖かさなんて感じることができないのだろうと。
私が今までやってきたゲームはそんなものだった。だけど痛みはやけに強烈だし、鋭い痛み、鈍い痛みだけだが無駄にリアルとか、力を入れるところを間違えているのでは、と何度も思ったものだ。
それに対してこのゲームは違う。噴水の音も、お日様の光もまるで現実と遜色ないではないか。きっとレンガから伝う足のこの感覚も現実とそう変わらないに違いない。
辺りを見回すとまるでそこに存在しているかのように人々の動きを実感できる。沢山の人々が、今もなお足元からポリゴンが集積しながら形成されているのだから、このゲームをゲームと実感できる。こんなゆったりと考えながらも増えている人々はきっと私と、そして私たちと同じに違いないだろう。
私たちは、この世界を冒険する者、であるのだ。
草原を駆け、森を探索し、大海を航海する。
そして、---動物を狩り、盗賊らと戦い、竜と攻防を繰り返しながら仲間たちと命懸けの死闘を繰り返す。
もしくは、遺跡を探索し、命を奪いに来るトラップを潜り抜け、金銀財宝が詰まった宝箱を見つけて一喜一憂する。
私たちはこの世界で、そういう存在になるのだ。この沢山の人々の中には勇者や英雄が体験をするような者も出てくるに違いない。
今も増えている人々---冒険者は増加の一歩を辿っているが、この噴水を中心とした大きな広場がいっぱいになることはない。
彼ら彼女らは冒険を胸いっぱいに行動に移しているのだから。この未知に向けて新たな一歩を進める。
私も彼らに倣うように一歩を進める。今まで見られなかった世界を見に冒険を始めるのだ。
さぁ、出発だ。