ふるさと宅配便 (箱物語13)
留守番をしていたら宅配便が届いた。
お父さんのイナカからで、でっかい箱の中身はたくさんの夏ミカンだった。
おじいちゃんからの手紙もある。
――まるで魚みたいだな。おじいちゃんたら、ボクをびっくりさせようと思って……。
手紙を読んでおもわず笑ってしまった。
こんなことが書いてあったのだ。
『このたびうちの村で、ふるさと宅配便というものが始まった。村特製の宅配便で送ると、村の自然がそのまま届くそうだ。そこでワシは、近くの池で捕まえた夏ミカンを送ることにした。届いたら、すぐに水に入れてやってくれ。この夏ミカン、あばれることもあるんで気をつけるようにな』
夏みかんをひとつ手に取ってみると、あまずっぱい香りがする。
と、そのとき。
夏ミカンが手から飛び出した。
――えっ、なんで?
夏ミカンは箱のそばまで転がって止まった。
――まさかあ?
べつの夏ミカンを手に取ってみた。
「あいたっ!」
夏ミカンがいきなり飛び上がって、ボクのオデコにぶつかってきた。それからコロコロと転がって、さっきの夏ミカンのとなりに並ぶようにして止まった。
「おい、どうもアイツは気にくわねえな」
「ああ、そうだな」
「なあ、こらしめてやろうじゃねえか」
「それがいい」
夏ミカンがしゃべっている。
――そうだ、あばれることもあるって。
ボクは手紙のことを思い出し、あわてて二階にある自分の部屋へとかけこんだ。
――しかえしにやってくるかも。
ドアに耳を押し当てて、ボクは外のようすをうかがってみた。
もの音ひとつ聞こえない。
――どうしたんだろう?
しばらくドアに耳をあてていたが、いつまでたっても静かだった。
――そうか!
夏ミカンには足がない。足がないので階段を上ってこれないのだ。
ボクはそっとドアをあけ、階段の上から玄関をのぞいてみた。
夏ミカンたちは見えない。
――どこにいるんだろう?
おそるおそる階段を降りると、洗面所の方から水の音が聞こえた。
ボクは忍び足で洗面所のそばまで行ってみた。
ポチャ、ポチャ。
バスタブの中にいるのだろう、水のはねる音がしている。
それに声もしている。
「箱の中は息がつまりそうだったな」
「ああ、生き返った気分だぜ」
「アイツ、どうしてすぐに、ここに入れてくれなかったのかな?」
「自然宅配便のこと、なにもわかってねえのさ」
「ところで腹がへらねえか」
「ああ、昨日からなにも食べてねえからな」
「こまったぞ。ここには魚もカエルもいねえ」
「くうモノがなきゃあ、ワシら死んでしまうぞ」
――そっかあ!
おなかがすいてたんで、夏ミカンたちはキゲンが悪かったのだ。
――そうだ、魚なら……。
台所にイリコがある。それを食べれば、もしかしてキゲンがなおるかもしれない。
ボクは台所に行って、イリコの入ったカンを手にもどってきた。それから思いきってドアをあけた。
――えっ、なんで?
お風呂が消えていた。
かわりに見覚えのある大きな池が広がっている。おじいちゃんの家の裏にあるもので、そこには夏ミカンがいくつもプカプカ浮いていた。
「イリコでいいなら、ここにあるよ」
ボクはカンをふって見せた。
「おー、クイモノだ」
「腹へった、早く食わせろ」
夏ミカンたちが水の上を転がりながら岸辺に集まってくる。
ボクはイリコを取り出そうとした。だけど、どうしたことかカンのフタがあかない。
「腹へった」
「早くくれ」
夏ミカンたちがしきりに叫ぶ。
「待って、フタがあかないんだよ」
ボクはあせった。そしてあせればあせるほど、汗で手がすべてしまう。
「早く、早く。早くくれなきゃ、ひどい目にあわせるぞー」
「そうだ、ひどい目にあわせるぞー」
夏ミカンたちが、水の上でピョンピョンはねはじめた。
今にも飛びかかってきそうだ。
――ダメだ!
フタがあいてくれない。
ボクはカンをほうり出した。
そして逃げ出したとたん、
――うわっ!
なにかにぶつかって転んでしまった。
あわてて起き上がると、そこはなぜだかうちの玄関だった。
目の前には宅配便の箱もある。
――このことだったのか、ふるさと宅配便って。
箱のそば。
そこには夏ミカンがふたつ、並ぶようにして転がっていた。