孤児から勇者へ。勇者から犯罪者へ。犯罪者から魔王軍幹部になった男の人生~男は何ゆえこのような人生を送ることになったのか~
若干、鬱な要素があります。
あるところに一人の優しい男がいました。男は身寄りもなく、読み書きや計算などができなかったものの戦闘だけはできたので冒険者としてやっていくことにしました。
ある日、男は魔物に襲われて死にかけている他の冒険者をみかけ助けました。すると冒険者達は
「われわれだけでも倒せた。なのに貴様が乱入したせいで魔物の毛皮の質が落ちてしまったではないか。どう責任を取るのだ」
と、助けてあげたはずなのに何故か責められました。男は冒険者達に謝りお金を渡してその場から立ち去りました。
男は数年後ギルドランクは低いもののそこそこの力を手にいれてました。ランクが低い理由については男の優しさが原因だったと言われています。それはさておき、あるときギルドもないような村についたとき、その村の様子がおかしいことに気がつきました。なので村の村長にどうしてこんなに静まりかえっていて子供が村にいないのか尋ねました。村長はなにも答えません。
男のランクが低いこと。1人なこと。村の問題。理由は様々考えられますがなにも答えません。男は悩みました。ですが自分の力で解決できるなら。っと思った男は独自に調査をしました。
その結果、村の周りに山賊が出回り、女は犯し。男は殺し。子供を奴隷として売り払っていることが発覚したのです。男は怒り狂いました。そしてその日のうちに山賊を全滅させ村長に報告しました。『もう大丈夫』だと。すると村長は男に
「なんてことをしてくれたんだ。この村は山賊に襲われてはいたがそれでも子供を差し出せばわしの命は助けてくれたというのに。次に別の山賊が来たら今度はわしを殺すかもしれないじゃないか。出ていけこの疫病神」
男は満身創痍になりながらも、村を。大人を。そしてなにより子供達を助けたのにこの村長は自分しか助かることしか考えていなかったこと分かり悲しみました。そして村長の指示により村人から襲われました。本当は村人を殺す力を男は持っていたのですが、それでも助けた子供達のことを思い、村から出ていきました。
男は王国に行きました。そこで男が見たものは上位階級の者が同じ人間であるはずの上位以下の階級の者をまるでごみ同然に殺しそれが当たり前となっている王国でした。
男は殺されそうな低位階級の少女を見かけたとき、体が反応して上位階級の者を殴り飛ばしました。当然、男は衛兵や護衛兵に襲われました。ですが男は逃げ切り、こんな上位階級以外の者が苦しみ不正ばかりの王国の王を殺しました。そして長い逃亡生活が始まりました。
逃亡生活の中でこの王国にきたときに助けた少女とその一家が今度は男を助けてくれると言うことで家に匿ってくれることになりました。男は逃亡生活に疲れていたこともあり匿って貰えるときに迷惑をかけると考慮したのですが少女とその一家の強い希望もあり、長い逃亡生活で疲れていたので一晩だけ。ということで泊めて貰うことにしました。ところが男が寝ていると、大勢の足音が聞こえます。バレたのか、なぜ。疑問が浮かびましたが、ひそひそ声で話し声が聞こえました。
「国王殺しのあいつを差し出せばわれわれ一家が上位階級になれる。」
「あんな汚い男に上位階級になる私が助けられたなんてショックだわ。まぁ、その男のおかげで私は上位階級になれるんだけどね。」
男は言葉を聞いて絶句しました。そうです。一家が裏切っていたのです。人間は汚い、男はこのときから人を信じられなくなりました。男はなんとかその場から逃げ出しました。ですが人族の領地では行く当てがありません。男は森で倒れていると、とある獣人に助けられました。
人を信じられなかった男ですが長い逃亡生活。傷ついた体。空腹。疲れきった精神。様々な理由から獣人の家から逃げ出せずに、介抱されて同棲しているうちに気づけば数年がたっていました。
初めは王国で助けた少女と一家達を思いだし、またつき出されるかと思っていたのですが、つき出されることはありませんでした。なので獣人に訪ねると
「なんでそんなことをするんだい?人間がどうなのかは知らないがあたい達はそんなことをしないよ。」
と言われ驚きました。そして怪我が治り動き出せるころに、この獣人の村の人たちが魔物に襲われているのを発見し、咄嗟に助けてしまい感謝され驚きました。さらに数ヶ月がたつと、村の周りに山賊が出て村の子供拐われていました。男は子供達を助けて山賊を全滅させました。そして、村から追い出されるかと思いきや村全体から感謝されまた驚きました。
村で傷ついた体と心を癒されていた男はある日、魔王が出現したことを知りました。魔王は魔族を統一し世界を魔族だけのものにしようとしている存在です。
そのため、魔王は魔族以外を全て滅ぼそうとしています。対象には当然、獣人も含まれています。
男は夜、村が静まりかえったとき村から抜け出しました。
そして幾多の戦いを続けとうとう魔王を殺しました。
ですが魔王との戦いで疲弊しきった体では残りの魔族は倒せずまた逃亡生活を送るのでした。人間と魔族に追われる逃亡生活の中で男は無意識にあのとき助けてくれた村のほうへ村のほうへと進んで行きます。
「あんた‼大丈夫かい‼?」
男は声を聞くと自分の行動に絶望しました。助けるはずの村へ何故、自分は逃げてきたのだと。これなら自分など死んでおけばよかったのに。男は慌てて声の主、あのとき自分を助けてくれた獣人から逃げ出しました。ですが逃亡の末に疲れきった体ではすぐに捕まってしまいます。
「俺をほっておいてくれ」
「なにいってるんだい‼」
あぁ、やはり。男は涙を流し意識を手放しました。
起きると自分がお世話になっていた家で温かいスープを出されました。
「起きたかい?まずはこれを飲みな」
「俺を匿うんじゃない。俺は人間の王を。魔族の王を殺した男だぞ。きっと追っ手がやってくる。」
「知ってるさ、そんぐらい。さぁ、まずはこれを飲むんだ。話はそれからだよ」
男は自分がここに居ては迷惑がかかると思い、この村だけでは知られたくなかった事情を話しました。すると彼女の答えは男が期待した、けれどそうあって欲しくなかった言葉ではなく、全く予想外の返事でした。男は再び泣き出します。そしてスープを飲むと途端に眠気がしました。
目を覚ますと辺りが真っ暗の場所に閉じ込められていました。体が麻痺していて言うことが効きません。そしてすぐそばにあった、微かに差し込む灯りの場所を覗くと追っ手がやってきています。
あぁ、またか、また裏切られたのか。男の心にどす黒いなにかが宿ります。そして村人達は追っ手を・・・・・・
攻撃し始めました。男は驚きます。裏切ったのでは無かったのか?
追っ手に売るつもりでは無かったのか?男が困惑していると、村人が一人、また一人と殺されていきます。
(やめろ。やめろやめろ。やめろやめろやめろ。やめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろうわぁぁぁぁぁぁぁぁ)
声を出したくても出せず男の麻痺した体では見ていることしかできません。
辞めてくれ、お前達が死ぬことではない。
辞めてくれ、そのまま俺を売ればいいではないか。
辞めてくれ、俺のために追っ手と戦わないでくれ。
辞めてくれ、せめて逃げ出してくれ。
辞めてくれ、村人達を殺さないでくれ。
辞めてくれ辞めてくれ辞めてくれ辞めてくれ辞めてくれ
男は気が遠くなるほど、村人が虐殺されることをただただ見ていることしかできませんでした。麻痺が無くなり男は急いで真っ暗の場所から抜け出します。その頃には追っ手達は別の場所に行っているようでした。誰か生き残りはいないのか男は探します。ですがみんな殺されています。かろうじて息がある者もすぐに息を引き取りました。そこへ男は見たくなかった者を発見します。男を助けてくれて、男に薬を盛った、獣人です。
「おい‼無事か‼?」
「おや、あんたかい。もう薬が切れるなんて随分強いんだねぇ」
「当たり前だ‼俺は全ての王を殺した存在なのだから」
「ふふ。そうだったねぇ。あんた、アタイが死ぬ前に頼みがある」
「死ぬとか言うな‼お前は助「黙って聞きな‼」ける」
彼女は満身創痍で眼の焦点すらあっていません。助かる手段はないでしょう。男は現実を認めず必死に叫びます。そこへ今までの彼女から聞いたこともない死ぬ寸前とは思えぬ迫力のある声が響きます。
「村の一員のあんたを売るわけないだろ。あんたは。。。アタイの夫なんだから。娘ができたんだ。あんたとアタイの娘を託すよ。。
あんたがいた倉庫にいるはずさ。娘だけは守ってやってくれ」
そうして、彼女は息を引き取りました。男は呆然とけれど、しっかりとした足取りで娘を探しにいきます。娘を見つけたとき男は嗚咽を漏らしました。
ロングのさらさらな黒髪。頭には羊のような角。背中から漆黒の翼。目は紅く宝石のルビーよりも輝いているように見えとても綺麗に思える。その容姿から人間ではないことは明らかですが、彼女と男。明らかに二人の子供だとわかりました。
男は暫くして、村人達を全員埋葬しました。そして考えた結果、魔王軍につくことにしました。人間は狡猾です。男を利用するだけ利用して、獣人とのハーフである娘にいつ危害を加えるかわかりません。魔族は力こそ全て。と力さえ示している間は娘を守る後ろ楯に成りうると考えたのです。
その後、男は最愛の彼女の約束を、娘を、守るため魔王軍につきます。そして人間と争いを続けました。
男は祈ります。
いつか娘を幸せにしてくれる存在が現れることを。
いつか男が諦めてしまった世界を平和に導く存在が現れることを。
いつか妻と娘だけでも笑顔でいられる世界が訪れることを。