F-3.震える世界
久し振りに落ち着けるということで全員、といっても四人、勢揃いした。
今朝の食事は豚骨ラーメン、場所は街の外で円卓と椅子は用意した。
朝からラーメンなんて贅沢でしょ?
クミと第一王女セラの記憶、そしてハジメが集めた情報をまとめながら食事とする。
この世界はフェルトミアという。
「このラーメン?という奴は美味いな」
「この細い麺が美味いんだよ」
「もっと紅ショウガちょうだ~い」
「入れ過ぎては味が壊れますよ」
中央に歪な形でフェルトミア王国、北に魔族のスーディル、東にティターン帝国、
南にはカルディア教国がある。
クミの獣人の国は新興のティターン帝国に吸収されたそうだ。
「どの国も召喚者で戦争、魔族に至っては魔王が召喚者か。酷い話だ」
クミが”世界が嫌い”といった理由もなんとなくわかる。
召喚者を使わなかった獣人の国のようなものは吸収されていく、と。
「ああ、だからこんな世界は滅んだ方がいい」
「それは同意だな。他所の世界にまで迷惑かけ続けているし」
呼ばれた連中は喜んでいるかもしれないがね。
「さて、ボクはギルドに用事があるんだ。クミも来てくれないかな?」
「どうしてだ?私はいないほうがトラブルは少ないだろう」
「この世界は獣人状態のボクとクミがメインで動くことになる。
だからあちこちに入国できるギルドには登録する必要があるんだ。
それにトラブルも予定したものなら歓迎するさ」
「わかった。ところで城門はどうするんだ?」
「夜になったら適当に城壁を超える。今日は森の素材を見てみたい」
「はい、森には色々な魔力を含む素材があると聞きました」
ハジメは相変わらず真面目だ。
「ユリはどうするんだ?」
「私は寝てる~」
ぶれない奴って素敵だな。
「わかった、じゃあ森へ案内しよう」
「へえ、意外と明るいもんだ」
「ええ、奥まで行かなければこんなもんよ」
森の中を見たことの無い薬草やキノコ、果物などを求めての散歩だ。
サンプルとして一個あればいいから気楽なもんだ。
せっかく貰ったんだし”鑑定”能力も使ってあげようじゃないか。
「水に魔力が通ってるねえ」
意味があるのかな?水中の魔物に必要なのか。
(ハジメ、何か見つけたらお願い)
(了解しました)
同族同士なら声を出さずに会話が出来る。
今、ハジメはカラス状態だから会話がもし見られてもいいように警戒はしておこう。
そういやグリフォンとかワイバーン、ドラゴンも欲しいよね。
魔族領に行けばいるだろうか。楽しみが出来たよ。
楽しい採集のお昼、それは突然起こった。
ズズズズ…
地面が揺れている。それどころか空も鳴いている?
魔力も大きく荒れくるっている。
ドンッ
「ぐぅ!」
その日、世界が大きく軋んだ音を立てた。
「クミ、記憶の確認のために聞くが、さっきのが何かわかるか?」
「異世界人の連中は地震って言ってた。これほど大きいのは初めてだけど小さいのは何度かあった」
やはり気付いていないようだな。
「ハジメ、ユリ、集まれ。
クミ、君の望みはすぐ叶うようだぞ。
今のは世界が崩壊する兆し。まさに”軋み”なんだよ」
「でしょうな。今回のは大きいです」
ユリは理解してないな。理解する気も無さそうだが。
「な、なんで…」
「度重なる召喚、戦いでの魔力の大量消費。何事もタダじゃないんだ。
何を消費しているのか分かってないんだろうなあ…。
無茶をしているのは”世界”なんだよ。
特に召喚はまずい。他所の世界から無理やりだからかなりの無茶だ」
別世界に干渉する度に召喚発動のコストに加え、相手世界へ大量のエネルギーが漏れているはず。
それを考えると地球世界はエネルギーが供給され安定した世界だったな。
クミは深刻な顔をして悩んでいる。
「ど、どうすればいいんだ教えてくれ!」
「どうした?望み通り世界が滅ぶんだぞ。喜ぶべきじゃないか」
「いや…私は…私はぁ…」
「まあ落ち着いて、クミ。
真相を言うとね、いくらボク達や異世界人が反則くさい能力を持っていようと
世界の崩壊を止めるなんて無理なんだよ。
ボクもこれが初体験だが統括の記憶では何度も起こっているらしい。
崩壊を止められたケースは一度もない。
それこそ神様が命を懸けてでもやるくらいじゃないと無理だよ」
ふと、イエローナイフはこれを知った上で情報提供したのではないかと考える。
彼女らではあり得ない話ではないね。
「世界の崩壊は寿命なんだよ。早いか遅いかだけの差さ。
もっと気楽に考えようぜ」
「え…」
ダメだな。しばらくクミはお休みだ。
「クミ、君には考える時間が必要だ。体内に戻すから少し考えていてくれ」
「あ、ああわかった」
絶望されて役に立たなくなるのも困るんだけどなあ。
体内に回収しておく。ついでにユリも。
「ハジメ、今のペースならもって2年だろう。念のため6ヶ月で引くぞ」
「ええ、忙しくなりますね」
回収出来るモノは回収しないとね!