E-2.死者は黙して語らず
ボクはミコト、大学院1年電気科だったモノだ。
今はブルーリング族のマザーをしている。
(ボクは男なんだけどなあ)
(我々には性別はありませんよ、ミコト)
日本語に適切な言語が他にないためにマザーと翻訳されているようだ。
マザーとは眷属を生み出し、管理するもの。
自分にはまだハジメしかいないけどね。
(女性の一般的な情報を得ましょう)
そう、ボク達はさっきの公園へ向かっている。
観て解析した場合、物質情報は得られるけれど遺伝子情報や記憶は入手出来なかった。
だから自分は死んだんだけど。
この世界の名誉ある第一村人として選ばれたそうだ。
しかもマザーとして生み出されて最初の犠牲者だったため、主人格として残された。
喜ぶべきことだ。
…とハジメは言っている。
公園のベンチの状況は変わっていない。
彼女の血もまだ乾いていない。
ボクを襲った男も気絶したままだ。
死後放置しすぎると記憶がバラバラになってしまうから少し急ぐことにする。
(まず、全身の取り込み)
彼女の体を全て吸収する。
大谷ゆり、24歳、看護師。背が低かったせいで若く見えたか。
知識量もなかなか。処女ではなかった。これは助かる。
それで、気絶しているのがストーカー男か…ちょうどいいな。
ストーカー男にくつわをかませ、手と足をそれぞれプラスチックカフで縛る。
カフはハジメがいつの間にか入手、複製してくれた。準備のいい奴である。
彼にはボクとゆりを殺したストーカー犯になってもらう予定だ。
彼は資材置き場に放置し、数日後に見つかってもらうように期待しておこう。
別に餓死しても問題ないだろう?
さて、次は死体の生成だ。
ゆりは先ほどの死体そのものを、ボクのは今着ている服に修復した出刃包丁を刺した状態にする。
ボク自身はストーカー犯の姿を取る。
遺伝子だけあればよく記憶は不要だったのでストーカー犯の髪の毛をいくつかもらっている。
あとはボクとゆりとストーカー犯のカードを使用して現金を限界まで引き出して逃走だ。
ストーカー殺人がストーカー殺人強盗になるだけの話。
ああ、ストーカー犯の暗証番号は財布にメモがあったよ。
帰り道、怪我をした黒猫を複数のカラスが攻撃していた。
ちょうど良かった。
(次は何を集めようかな?ハジメ)
(白人と黒人の遺伝子サンプルが欲しいかな、ミコト)
黒猫になったボクとカラスになったハジメが屋根の上で語らう。
そうだ、明日は東京駅にいこう。
あそこなら色々な人に出会えるだろう。




