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E-1.好奇心は猫を殺す

自分に解析能力がついているのに気が付いたのはつい最近だ。

よくある鑑定能力というものではない。

例えば人を観ると「酸素63% 炭素20% 水素9%」みたいになり、Wikipediaのようだ。

ただ、水はどれくらい?と観ると「水70%」のようにいくらかアドリブは効いた。

更に慣れてくるとこいつ昨日朝帰りだな、とか酒くせえ、とかまで見えるようになっている。

対象は生物ばかりではない。

食品を見ると調味料の量がわかったりするし、水を見たら不純物濃度なんかもわかる。

もし自分が化学や薬学だったらどれほど便利だっただろうか。残念ながら電気なのだが。


もちろん自分が異常なことは理解していた。誰にも言わないし特に利用するつもりもない。

だが、その日はうっかりしまったのだ。


(血の気配がする…)


街で濃厚な血の匂いを感じた。鼻で感じているわけではないので匂いよりも気配のほうが正解だろう。

より濃厚な気配のほうへ、死の気配のほうへ進んでいく。

それを予感させるほどの強い気配。


それは公園のベンチ裏にあった。

20台になるかならないかの女性。血はまだ乾いていない。

自分の解析能力は女性の死を確認できた。


他人の気配に気付くのが遅れたのはやはり非日常に飲まれてしまっていたからだろう。

だがとっさに振り向いた自分を褒めてやりたい気分だ。

その腹に出刃包丁がぐっさりと刺さっていなければだが。


「あ…」


(痴話喧嘩に巻き込まれて死亡とか情けないねえ)


「くそったれがしねえええ」


再度刺される覚悟をし、身構える。

…その前になんで痛くないんだ?

よく見ると相手も錯乱していた。

出刃包丁の刃が消失している。


(殴れ!)


誰かの声にとっさに手を出す。

喧嘩の経験などないのに違和感なく綺麗に顎に入る右手。

今やるべきことは間違いない、逃げることだ。


1kmほど走ったのに息が切れない。自分は研究職でそんな体力は無かったはずだ。

やはり最近おかしい。どうなっている?

だが走ることはやめるわけにはいかない。まずは帰ることだ。




帰宅し、上着を脱ぐ。

お腹を撫でる。傷跡などない。

インナーを見る。穴がある。やはり夢ではなかった。


(包丁…は勿体いないか)


こういう時にまで無意識に貧乏性な自分に哀しくなる。

中学生時代に使った彫刻刀を物置から引っ張り出した。

当時使っていた時にはこんな使い道をするなどまったく考えなかっただろう。


(お腹…だったよな)


検証のためとはいえ、彫刻刀による切腹という形に息をのむ。

怖い。

少し、少しだけ躊躇したあとゆっくりと刃を差し入れる。


やはり刃が消えた。


(自分の体はいったいどうなったんだ?)


(思い出しましたか?)


「うわっ」


誰かの声に驚き、彫刻刀をうっかり落とす。刃はないが。


「誰だ…」


少し声を落とす。騒ぐべきではなかった。


(私は貴方の第一の部下です。思い出していただけましたか?)


お腹から液状の何かが盛り上がり、そして分離する。


ああ、何もかも思い出した。

一週間前の夜、帰宅途中の自分はスライムに襲われ


   既に死んでいると

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