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俺様、神様、創成主!?~いいえ、人間です~  作者: 慧斗
第3章 そして神様を中心に、世界は変わり始める
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第52話 私の勇者様

「やめてーっ!」


 エルが慌てて手をのばし、しかしノートに届かず。


「お願い、だ」


 俺の声を聞いて、ノートは再び、輝きを放ちはじめた。


「やめて、高良!お願いだから!」


 エルが叫ぶ。でも、俺は残念ながら、そのお願いを叶えてあげられない。


「こうなったら……!」


 そう叫び、突進してくる。でも、それはリオラとアリシアによって阻まれた。


「二人とも、何するのよ!」


 エルが喚く。でも、二人は動かない。


「高良と一緒にいたくないの!?二人は、高良と分かれても良いの!?」


「良いわけがない……!高良は、大事な友達だから……!」


「じゃあ、どきなさいよ!」


「ダメ……!それが高良の願いなら、親友である私はそれを叶えてあげるべきだから……!」


「何でよ!」


 エルが力ずくでリオラをどかそうとするけど、リオラはびくともしない。


「……エレオノーラさん」


 黙っていたアリシアが、口を開いた。


「何よ」


「私、三人の話を聞いて思ったんです。高良さんの言っていることは合ってるって」


「どういうこと?」


「高良さんは、さっき『俺は、本来この世界にいてはいけない存在だから。これ以上俺がいても、闇雲に歴史をかき回すだけだから。俺のせいでみんながこんな危機に陥ってるんだから。だから、もうここにはいられない』と言っていました」


「うん。でも、それがどうしたのよ?」


「高良さんは、もう覚悟を決めています。自分が帰ることは、『今は』みんなにとって不幸でも『いつか』みんなにとって幸福なことになる、と。ですから、本人の意思に従うべきだと思うんです」


「アリシア……あんたも、考えはリオラと同じってこと?」


「はい。エレオノーラさんも、ここで帰さないときっといつか後悔すると思うんです」


「え?なんでよ?」


「ここで高良さんを帰さないと、多分高良さんは死んでしまうでしょう。でも、帰したら高良さんは生き延びられます。もう二度と会えなくても、高良さんはきっとどこかで生きている、と思っているだけで良いじゃないですか。高良さんと一緒にいた思い出は消えません」


「それは……そうだけど、でも……」


「お願いです、エレオノーラさん。どうか、高良さんの『願い』を叶えてあげてください」


 アリシアにそこまで言われて、エルはようやく押し黙った。


「あと、大事な話がもう一つ」


「何よ」


「高良さんは、ここにいるみんなが親友だと言いました。私も、その心は同じです。でも、親友と呼べる存在になりたいんだったら……。私は、みなさんに言わなくてはいけないことがあると思うんです」


「何?」


「私の、秘密をです」


 その言葉で分かった。アリシアは、自分が男だと言うつもりだ……!

 周りの目を気にして、ずっと女装をしていたのに。俺にそのことを打ち明けても(というかバレても)、みんなの前では女として振舞った。だけど、親友になりたいんだったらそういう隠し事をしたくないと腹をくくって。

 アリシアは、秘密を言う気だ。


「実は……、私、男なんだ」


 口調ががらりと変わる。アリシア……いや、アランが外した胸パッドが次々と地面に落ちる。

 みんなはどういう反応をするんだ。お願いだから、どうか……!


「知ってるけど……?何で今、そんなことを聞くの……?」


「そうですよ。って、いきなり会話に入ってすみません。兵がすぐ近くまで来ていたことを知らせにきたんですけど」


「そうだよっ!何で、今さらそんなこと言うのっ?今はそれどころじゃないんだよっ!」


「……え?」


 知ってた?今更?え?ちょ、どういうこと?


「知ってた、って、いつから……?」


 くぅの言う通り、それどころじゃないのは分かってる。でも、それがどうしても気になった。


「いつからだろ……?ほら、時々振る舞いが男らしくなってたから……」


「脱獄の時、ですかね?すぐに分かりましたよ?」


「あとは、匂いとかっ、胸の不自然さとかだねっ!」


「そうなんだ……!何だぁ……」


 良かった。

 きっと、アランもほっとしただろう。

 問題は……


「え、え、嘘?知らなかったの、私だけ?」


 ……そこでテンパってる、エルの対処だろう。




「―――で、アランはこんな格好をしているわけだ。分かったか?」


「うん、まあ……大体は分かったかな?」


「そうか」


 それは何よりだ。


「っていうか、兵はすぐそこまで来てるんだよっ!なにのんびり説明してるのっ!」


「あ、ごめん」


 確かに、兵の姿はもうすぐそこまで見える。時間はないだろう。

 俺は、立ち上がってノートをじっと見つめた。


「お願いだ。俺を、元いた世界に帰してくれ」


 ノートが、さっきよりも眩しい光を放ち始める。


「やめて!高良!」


「ごめんな、エル。今ならまだ間に合うかもしれない。逃げろ」


 名前と顔がバレている以上、みんなが捕まるのは時間の問題かもしれない。でも、きっと死刑にはならないはず。

 俺がいない限り、みんなが罪を重ねることもないだろうから。


「高良……っ」


「エル、早く逃げろって」


「嫌だ……最後まで、ここにいる」


「逃げろって!捕まるぞ!?」


「いいわよ、別に……。高良がいなくなる最後まで、一緒にいたいんだもの」


「……っ」


 何でこう、聞いたら恥ずかしくなるようなことを言うかなぁ……。


「言わなきゃ、よかった……っ!言わなかったら、高良は帰らなくてすんだのに。でも、そうしなかったのは、やっぱり……、時々高良が見せる、寂しそうな表情が気になったからよ」


「俺の表情?」


「うん。私たちが親友だって言っても、やっぱり高良は故郷が恋しいんだよ」


 そんな顔してたか?俺。うーん……。


「それで、思いついたのよ。私の願いを叶えて高良が現れたんだったら、私の願いで高良を帰らせることが出来るんじゃないかってね」


「そうか。……そういえば、エルの願いって何だったんだ?」


「え、知らないの?」


「ああ……。俺には、『助けて』までしか聞こえなかったからな」


「そうなんだ……」


 そんな会話をしている間にも、兵は近づき、俺の体は光に包まれ始める。


「エル、急いで……!」


「エレオノーラさん!早くしないと捕まりますよ!」


 いつの間にかくぅとナオにまたがった二人が、動かないエルに声をかける。


「ほら、早く行けよ。お前のことを待ってる人だっているんだから。……大丈夫。お前は、独りじゃない」


 エルの頭を撫でる。しばらくして、エルは渋々俺から離れていった。


「ねぇ、高良」


「ん?」


「あの時の、私の願いはね――?」


 エルは耳元で呟くと、にこっと笑ってみんなを追いかけていった。


「エル……」


 今のエルの顔を、俺は絶対に忘れないと思う。

 そんな、涙でぐしゃぐしゃで、頬が真っ赤で、でも、目は輝いて―――別れを悲しむと同時に、未来へと希望を持つ顔を。

 体を包む光が一層眩しくなり、俺は目を閉じた。


 またな。

 俺が創って、そして友達になった、みんな。

 また、いつか会えたなら――


 叶わない願いだと分かっていても、願ってしまう。

 またいつか、会えないかと。

 またいつか、みんなで遊べないかと。

 光の中、俺の脳裏にはさっきエルが言っていたことが繰り返されていた。


 ――私の、願いはね――


 私の大切な勇者様に、出会うこと。

次回、最終回です。

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