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俺様、神様、創成主!?~いいえ、人間です~  作者: 慧斗
第3章 そして神様を中心に、世界は変わり始める
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第51話 叶わぬ願い

「じゃあ、丘に行くわよ」


 エルは、アリシアにそう言ったっきり黙っていた。

 それは、みんなも同じ。

 騒がしかった車内が、急激に静かになっていた。

 その分、時間は早く過ぎていくようで。

 あっという間に、丘に着いた。

 エルが、そっとノートを取り出す。


「じゃあ、やるわよ」


 神妙な面持ちで、真剣に頷く。

 エルが、そっとノートを開いた。


「お願い……」


 その言葉を、合図に。

 ノートが、光りだした。


「これが……」


 目の前で起こった不思議な現象に、みんな息を呑む。

 エルが大きく息を吸って、口を開けたときだった。


「大変っ!」


 くぅが、駆け込んできた。


「軍の人たちが、こっちに向かってるよぉっ!」


「え!?」


 もう、追っ手がそこまで……!


「早くしないと!」


 思わず叫ぶ。でも、エルは動かなかった。


「エル!?早く!」


 早く、言ってくれ。じゃないと、みんな捕まる……!


「……いや」


 でも。ようやく開いたエルの口から出たのは、そんな言葉だった。


「エル……?」


「嫌!やっぱり、高良を帰すなんて、嫌っ!」


 そう叫んで、ノートを放り投げる。

 ノートは光を失い、草の上に転がった。


「エ、ル……?何、して……」


 リオラが、信じられないものを見るような目で呟く。


「何よ!帰したくないんだもん!高良と別れるなんて、そんなの嫌!」


「だからって、我がまま言わないで……!本人の意思を優先して……!この状況を見て、そんな行動は取れないでしょ……?エル、あなたは本当に軍の班の一つをまとめる人間なの……?」


「……分かってるわよ!状況も把握してる!ここで高良を帰さないと、高良は捕まって殺されちゃう!それどころか、みんなも、私も捕まっちゃう!でも……」


「でも……?」


「それでも、私は高良と離れたくない!」


「さっきも言ったでしょ、我がまま言わないで……!私たちに与えられた選択肢は二つなの……!高良を元いた世界に帰すか、このまま捕まって高良を殺されるかだよ……!高良とずっと一緒にいるなんていう、甘い選択肢は存在しないの……!分かって……!どっちを選んでも、エルにとっては不幸だけど、でも……、高良にとっては、幸福な選択肢があるじゃない……!」


 リオラが言っているのはきっと、『俺を帰す』という選択肢。でも、一つだけ、リオラの言葉には間違いがある。それは―――


「なぁ、リオラ。その選択肢は、俺にとって幸福な選択肢じゃない」


「え……!」


「元いた世界に戻ったって、結局は寂しい一人暮らし。確かに、元いた世界に未練はあるし、親友って呼べる存在もいるにはいるけど、でも……」



「俺にとって、一番の親友はここにいるみんなだから」



「高良……!」


 感極まった様子でこっちを見つめてくるエル。

「で、でも……っ!私たちは、出会ってからそんなに時間は経ってないし、それに、立場が違う……!」


 出会った日数。

 立場。

 そんなの―――


「そんなの、関係ねぇだろ」


 そんなことで、人を判断してはいけないと思う。


「俺は、みんなと一緒にいて楽しいと思った。命に代えてでも、守りたいものだと思った。かけがえのない、大切な仲間だと。―――そう、思った」


 だから、一緒にいた。


「リオラは、違うのか?俺が『神様』だったから仲良くなったのか?」


「違う……!私は、そんなことは全然思ってなくて……!」


「リオラと出会ってから二ヶ月ぐらいしか経ってないけど、リオラは俺のこと親友だと思ってるか?」


「うん……!もちろん……!」


「なら、そういうことだ」


 リオラが、目を丸くする。

 俺とリオラの会話を黙って聞いていたエルが、口を開いた。


「なら、高良。ここに、残って。帰らないで。私たちが親友なんだったら、ずっと一緒にいて」


「それは無理だ」


 即答。それに関して、俺の意見が変わることはない。


「何で!親友なんでしょ!一緒にいたいんでしょ!?」


「だからこそ、だ」


「え……?」


「俺は、本来この世界にいてはいけない存在だから。これ以上俺がいても、闇雲に歴史をかき回すだけだから。俺のせいでみんながこんな危機に陥ってるんだから。だから、もうここにはいられない」


 双方が、どれだけ一緒にいたいと願っても。それは、叶わぬ願いで。出会えたことすらがあり得ないことで、だから諦めないといけなくて。

 でも、それが出来ないから。

 だから、こうするしかない。


「高良っ!」


 エルが慌てた声を出す。

 俺は、その様子を横目で見ながら。

 静かに、そのノートを開いた。

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