表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺様、神様、創成主!?~いいえ、人間です~  作者: 慧斗
第3章 そして神様を中心に、世界は変わり始める
49/54

第48話 真実を告げるエル、責任に苦しむ高良、希望を捨てないアリシア、仲間を助けるリオラ

「高良、大丈夫……?」


「大丈夫。それより、三人は大丈夫か……?」


「大丈夫よ。それより、自分の心配をしなさい」


 あの顔面蒼白から何とか持ち直したエルの、元気な声が響く。


「そうですよ、高良さん。高良さんは、私たちよりも大変なはずなんですから。牢屋から出たら、きっと治してあげますからね」


 アリシアの声が、横から聞こえてきた。俺が牢屋から出れることなんてもう無いだろうに、わざわざ明るく振舞っているのが辛い。

 俺の入っている牢の右隣に、アリシア。正面に、エル。左隣に、リオラがいる。

 三人は、前に俺が入っていた普通の地下牢だ。

 けれども、俺が入っている牢は違う。天井が低くて立ち上がることも出来ず、鎖で何重にも拘束されて動けない。飯は無し、鉄格子には触ったら気絶レベルの電流が流れている。もう絶対に逃げないようにするための特別製の牢だ。

 それでも、俺の周りに三人を入れてくれたことがとても嬉しかった。


「大丈夫だよ」


 周りに、みんながいるから。だから、前より辛くても、耐えられる。


「高良……」


 リオラの心配そうな声が聞こえてくる。


「ん?」


「死刑……、来週なんだよね……?」


「ああ」


 見張りの兵が、そんなことを言ってた。


「まだ会議中だったのにいきなりそうなったのって、私たちが脱獄させたから……?」


「それは……」


 顔が見えなくても、今リオラがどんな顔をしているのか分かる。


「違うよ。それより、三人とも明後日にはここから出られるそうじゃん。良かったな」


 本当に良かった。全部、俺のせいなんだから。リオラのせいじゃない。俺のせい。だから、三人が出られるのはとても嬉しい。


「話を逸らさないで……!」


 隣から、叫び声が聞こえた。いつも、淡々と喋るリオラにしては珍しい声。


「それよりって何!私は、私たちは、高良が殺されるのを見たくない……!だから、だから兵に頼んだ……!私も、高良と一緒に殺してくださいって……!なのに……」


「リオラ。俺だって、気持ちは同じだ。俺のせいでリオラが殺されるのを、俺は見たくない」


「でも……っ!高良を犠牲にして、私は生きたくない……!」


「リオラだって、もう犠牲になった。エルも、アリシアも。三人とも、立場を奪われて。居場所を奪われて。人の目を気にしながら、これからも生活していくことになる」


「でも……っ!」


 リオラが言えたのはそこまでだった。嗚咽が喋るのを邪魔して、声が出ない。

 その代わりに、エルが口を開いた。


「ねぇ、高良。前に私、言ったわよね?『今の立場とか、金とか、どうでもいいわ。そんなものより、高良の方が大事。みんな、その気持ちは同じなの』って。覚えてる?」


「ああ」


 脱獄の時。遠い昔のように感じるけど、あれからまだ一日しか経ってない。

 忘れるはずがない。生きるのを諦めかけていた俺に向けられた、希望の言葉。エルがそんな風に言ってくれたことが、とても嬉しかった。


「だからね?高良を犠牲にした上に立つ幸せなんかいらない。そんなもの、求めない。そして、そんなものを幸せとは呼ばない」


「でも、それもこれも全部、俺のせいなんだから……」


「高良のせいじゃないのっ!」


 俺の言葉を、エルの叫びが遮った。悲鳴とも取れるような、悲痛な叫び。


「俺のせいじゃないって……どういうことだよ」


「高良は……なんで、自分のせいだと思ってる?」


「俺が、嘘をついたから。だから、捕まった。それは自業自得なのに、みんなが逃がしてくれた。そのせいで、こうなってる」


「高良は、嘘なんかついてないでしょ?高良の予言は、当たり続けていた。それが外れ始めたのは、高良が私を助けてから」


「でもっ、エルがそうなるように創ってしまったのは俺だ……っ!」


「そうよね。でも、高良がこの世界に来なかったら。私が死んでも、高良は気にしない。本の中で、私は読まれるたびに死ぬ。それだけの存在だった」


「でも、この世界に来たんだから!そして、エルに出会った。見殺しにするなんて、出来るわけがない……!」


「じゃあ、高良がこの世界に来なければよかった。そしたら、この世界の歴史は狂わされずにすんだ。高良は、こうならずにすんだ」


「そんなこと、言っても……!」


 エルは何が言いたいんだ。そんなことを言っても、この世界に来たのは本当に偶然だったのに。


「今の状況は、全部、高良のせいじゃない。私のせいなのよ!」


「…………え?」


 いきなりの言葉に、驚くしかなかった。


「それって、俺がエルを助けたからこうなったってこと?」


「違うのよ!高良が、この世界に来てしまったのは……」


 いつの間にか泣いていたエルが、鼻をすすった。


「私の、せいなのよ!」


「…………え?」


 そう言うしかなかった。え、え、え?ちょっと待て。俺がこの世界に来たのは、エルのせい?え?


「本当なの。高良がこの世界に来た時の話を聞いて、気づいたのよ……」


 エルと目があう。その強い目に、俺は目を逸らすことが出来なかった。


「高良は言ってた。『お願い』って声が聞こえたって。ひたすら、何度も何度も。そして。本が光った。最後に、『助けて――!』って聞こえたって」


「あ、ああ……」


「それで、私、思い出したことがあるの」


 涙を流しながら、エルは静かに語り始めた。

 

「あれは、お父さんとお母さんに襲われた日。目の前でお姉ちゃんが殺されて、お父さんとお母さんも殺されて。軍に保護された後すぐに解放されたけど、まだ実感が湧いてなかった。このまま家に帰ったら、みんながいるんじゃないかって……。暖かい笑顔で、『お帰り』って言ってくれるんじゃないかって……。でも、家は悲惨だった。銃弾が散らばっていて、床は血だらけで。暖かい笑顔なんて、どこにもなかった。静寂だけが、私を迎えてくれた」


 きらり、とエルの瞳が光った。


「その時、私は初めて現実を受け入れたの。もう、誰もいない。家の暗闇が、お前は一生独りぼっちなんだって笑ってる気がした。だから、逃げた。家から。暗闇から。静寂から。これが夢だったら良いのにって思った。それで……」


 そこで、エルが一旦区切る。


「あの丘に、行ったの」


 思わず息を呑んだ。目を見開いて、エルを凝視する。今まで黙って話を聞いていたアリシアとリオラも、驚いたのが気配で伝わってきた。


「ふらふらになって、丘の頂上まで登って。寝転がって、星空を見つめながらどうしようか考えてた。これから、私はどう生きていくのか。このことを、忘れることが出来るのか。きっと―――無理だと、思った。それで、ナイフで……自殺、しようとした」


 エルの瞳が大きく揺れる。その時のことを思い出したのだろうか。


「その時に、見つけたの。ぽつんと落ちてるノートを。何だろうと思って、開いてみた。そしたら、びっくりしたの。だって、それに出てくるヒロインは、とても私に似ていたから。……ううん、似てるどころじゃない。同じだった。名前も、外見も、境遇も」


 言葉は尚も続く。


「預言書だと、思ったの。神様が、間違えて落としでもしたのかなって……。どうしても気になって、読んでみた。自殺をするのも忘れて」


「その物語に出て来たヒロイン―――エレオノーラは、復讐しようとしていた。でも、とある丘で勇者の主人公に出会って。同情されるどころか、怒られて、でも慰められてた。羨ましいな、いつかそんな人が私の前に現れたらいいな、って、そのノートを読みながら夢見てたわ。でも……」


 エルがうつむく。暗いせいで顔はよく分からないけど、きっとこの明かりに負けないくらい暗い顔だろうなと思った。


「ねぇ、高良。エレオノーラは、最後にどうなるか知ってる?」


「え」


 エレオノーラは……。最後に……。


「死ぬ、のよ。勇者を守って、ドラゴンと戦って」


 また、両隣の牢から息を呑む音が聞こえた。でも、二人にも言ったはずだけど……


「兵として、モンスターと戦って死ねるのなら本望。私が死んでも、勇者の彼はエレオノーラを忘れない」


「私は、ナイフを投げ捨てて、ノートを抱きしめて泣いた。この人に、勇者に会うまでは死ねないって誓って。そして、何かある度にノートに『お願い』したの」


「それで……」


 とにかく『お願い……』と言っていた、あの声を思い出す。あんなに言うなんて、そんなに辛いことがたくさんあったんだろうか。

 ……さっきから気になってる、時間差については放っといておこう。異世界だし!な!


「だから、この状況は私のせい。分かった?」


「なっ……。だから、この状況は俺のせいだっつってんだろ!エルはただ、拾ったノートにお願いしてただけだ!それが偶然俺のノートで、偶然この世界に来たってことだろ!」


 自分で口に出して言ってみると、本当にすごい状況だな、俺。


「だから、私のせいだって言ってるでしょう!私が……私が助けを求めなかったら、高良はこの世界に来ずにすんだ!それに……私を助けたから、こんなことになったのよ」


「お前、まだそんなこと気にしてたのか!?」


 俺が、エルのことを見殺しにできるわけがない。それは、エルでも理解しているはずだ。


「あのさ……」


 それまで黙っていたリオラが、口を開いた。


「結局、こうなったのってさ……、全て、偶然なんだと思うの……」


「偶然?」


「うん……。ほら、さっき高良も言ってたでしょ……?『偶然』だって……」


「あー……」


 そういやそんなこと言ったなぁ。思いつくがままに喋ったから、そんなこと気にしてなかった。


「それに、エル……?じゃあ、エルは高良に出会ったことを後悔してるの……?」


「っ!……後悔なんか、してない。ノートに書いてあった通りにこの丘で出会った時は、この人が私の勇者様なんだって思った」


 ん?そのわりには本気で攻撃してきてたような?


「じゃあ、エルのせいじゃない……。高良のせいでもない……。本当に、偶然起こった奇跡なの……。二人とも、無駄なものは背負わないで……?」


 そんなリオラの言葉に、エルは涙を流し。

 俺は、静かに目を伏せた。



 それ以来。

 誰も、口を開くことはなかった。



 そして、それから二日後。

 三人は、地下牢から釈放された。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ