第46話 迫る追っ手
「えーっとなぁ……、本が、光ってたんだ」
「本、がですか?」
「ああ」
「興味深いね……。発光成分を含んだ本だったのかな……?」
リオラの発言は置いといて。
「本って言っても、俺が大学ノートに書いた本だからな。それで……」
「だいがくノート?何それ、ノートの種類?どっかのブランド?」
いや、『大学』っていうブランド名とかじゃねぇから……。
「研究の論文をまとめる時などに使うノートの中にも、そんな名前の本はない……」
「大学ノートってのはな、俺の世界の学校で使うノートの事だ!それで、話の続きだけどな……」
「がっこー……?」
「がっこー、じゃなくて学校、な!がっ・こ・う!それで、話の続き……」
「学校……。そこで、ノートを何に使うんですか?」
「……授業内容を写すんだよ」
「じゅぎょー、ですか……?」
「じゅぎょー、とは何だ……?」
「訓練学校の講習みたいな感じ?」
学校の授業は無くて、訓練学校の講習はあるのかよ。もう、何があって何がないのか分かんねぇな、この世界……。
「授業ってのはな、勉強を習う場所だ!教科書に載ってることを実験してみたりとか、お前がよくやってることをするんだよ!それで、話の……」
「きょーかしょですか……」
「あ、あれ?あの、取り扱い説明書みたいなやつ?」
だから何で取り扱い説明書なんかがあって教科書がないんだよ……。
「ふむふむ。興味深い単語だな……。それはいったい何なのだ……?なぁ、たか」
「だーっ、いい加減喋らせろーっ!お前らが聞いてきたんだろうが!」
「うるさい……。私は悪くない。聞きなれない単語を連発して好奇心を煽る、高良
が悪いのだ……」
「あーはいはいそうですね!俺が悪うございましたよ!」
ったく。これからは、喋る内容にも気をつけないとな。
「ま、まぁまぁ高良さん。もう質問せずに黙って聞いてますから、続きを話してください。リオラちゃんも、エレオノーラさんも黙ってくださいね?」
「はいはーい……」
「わ、私は別にうるさくないわよ!」
「現在進行形でうるせぇじゃねぇか!」
「わ、分かったわよ……。だから、さっさと続きを話して!」
だからうるせぇって。
「分かったよ……。で、どこまで話したっけ?」
「確か、本が光ってたところまででしたよ?」
「まだ一行しか説明してねーのかよ……」
まあとにかく、俺は気を取り直して続きを話し始めた。
「えーっとな、本が光ってて、声が聞こえてきたんだ」
「何て言ってたの?」
「何てって……」
黙るんじゃなかったのかよ。秒速で破ってんじゃねぇぞコラ。
なーんてことは、もちろん胸の内に留めておいて。
「何て言ってたっけなぁ……」
確か、ひたすら何かを言ってたんだよなぁ……。何だっけ……うーむ……。
「あ、そうだ。『助けて』って言ってた」
「助けて……?」
「SOSですかね……?」
今まで黙っていたリオラとアリシアも、我慢出来なくなったのか口を挟んでくる。お前らの忍耐力はミリ単位かよ。ったく、揃いも揃って話好きなんだからなぁ……。
「たっ、高良!」
「ん?」
「その声、最後になんて言ってたの?」
「最後……?何でそんなことを」
「いっ、いやね、それが高良がこの世界に来た原因なんだとしたら、最後になんか言ってたのかなぁって……決めゼリフみたいな?てっ、敵が魔女なんだったら最後に『地獄へ堕ちろ……!』とか言ってそうじゃない?」
「おー、すごい洞察力だなぁ。その洞察力と一緒に忍耐力も身につけてたら嬉しかったなぁ」
にしても、お前のその魔女への偏見なんなんだよ。ほら、アリシアが睨んでるって。
……って、アリシアぁ!?いや、確かに、魔女みたいな力持ってるけどさぁ……。
「まあ、確かに最後に聞こえたな」
「なっ、何て!?」
「えーっと、『お願い、助けて……!』って」
途端に、エルの顔から血の気が引いていくのが分かった。
「エル?どうし」
「え、え、お願いですか!?きっと、その人は高良さんにたすけてほしかったんでしょうねぇ」
「人とは限らない……」
「あーもう、お前らーっ!」
うるさい二人にまたまた質問攻めされて、俺はエルへの言葉を飲み込んでしまっていた。
「何で、何で!?」
「謎……」
「お前ら、その暇な主婦みたいなのやめといた方がいいぞ」
うざい。はっきり言ってうざい。こいつらに聞かれたから答えたのに、一、二行話すだけですぐに質問攻めだ。最終的に、話は続かないしエルは顔面蒼白だしアリシアとリオラは目を輝かせて喋ってばっかだし。それに、このままだと……
「いたぞ!」
あぁ、やっぱり。
「な、何ですか、いきなり!」
「追っ手だろ」
「そういえば、私たち逃亡中なんだった……」
「忘れるなよ!何でわざわざここに来たんだよ!」
そう。
俺たちを探していた追っ手が、騒ぎを聞きつけてとうとうこの場所を発見したのだった。




