第44話 すべての始まりの場所
「そうか。おい、ナオとくぅ!悪ぃけど、出来るだけ早く頼むぞ!」
「くぅくぅ!」
「ナオ!」
二匹が元気よく返事する。でも、これで更に俺らが乗れる面積狭くなったな……。
「よし、行くぞー!高良、早く来て」
「はいはい」
「エレオノーラさんは背中に乗ってください。私と高良は尻尾に乗ります」
「はぁ!?」
尻尾、だと……。いやいやいや、冗談だよな?あんなすぐに落ちそうな狭いところ、乗れるわけないもんな?しかも二人も。つーか……
「アリシアも尻尾で大丈夫なのか?」
「大丈夫です。私、男ですし」
「あ、そうだったな……」
じゃあ、俺とアリシアは二人で尻尾か。しかも、俺はリオラ担がなきゃいけないし。それに、それに、それに……
「怖いの?変わろうか?」
「……いや、いいよ」
確かに怖いけど。まだ少し目が潤んでいるエルに言われると、うんとは言えない。
結局、エルが背中に跨り。俺とアリシアは、そっと尻尾にしがみついた。
「ナオナオ」
ナオの『じゃあ行きますよー』という声を合図に、俺たちは飛び立った。
「うお、涼しい」
後ろでアランがそう言う。確かに、風が当たって涼しい。気持ち良い。でも、でもでも。
「ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃ……!」
俺は飛行機なんていう贅沢なものには乗ったことがないから分からないけど、多分壁無しの飛行機に乗っている感じだと思う。うん、何言ってるのかよく分からないな。比喩って難しいなぁ……。
「ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃ……!」
何てことを脳内で考える余裕はあっても、現実では頭の中真っ白だ。高い、怖い、高い。
歯がガチガチと音をたてて鳴る。二匹の尻尾はよく動くから、いつ落ちるかと気が気じゃない。
くぅの尻尾は、毛が生えててもっふもふでふっかふかだ。だから動くたびに毛が当たって、少しくすぐったい。
ナオの尻尾は、硬い鱗に覆われている。表面がざらざらしてるから、こっちは動くたびに少し痛い。
「高良……?ちょっと怖がりすぎだよ……?苦しい……」
「あっ、ごめんごめん。つい無意識に」
気がついたら、ガムの塊にぎゅーっと抱きついていた。うわ、恥ずい。
「くぅ、くぅくぅ!」
「そ、そうか。分かった」
「高良さん?くぅちゃん、なんて言ってます?」
「もう少しで上に着くってさ」
「了解です。エレオノーラさんも聞いてましたかー?」
「大丈、夫……」
良かった。まだ少し鼻声だけど、もう泣いてないみたいだ。
「くぅっ!」
そんな元気な声と共に、突然視界が開けた。
「よし、じゃあゆっくり下ろしてくれ」
「ナオ、ナオナオ!」
「えっ?」
「どうしたの、高良?」
「ナオくんは何を言ってるんですか?」
「兵士がいるから、そのじいさんの墓を作りたいんだったら、その場所まで飛ぶしかないってさ……。どこを墓にするかとか、そういうの決めてる?」
「うん。やっぱり博士は、研究所の近くが良いかなぁって思って」
「ナオ……」
それを聞いた途端に、ナオがしょんぼりした。その言葉が分かる俺も、つられてしょぼんとなる。
「なあ、エル。研究所も、今は兵士でいっぱいだって。悪いけど、別の所にしないか……?」
空からこの世界を眺め渡せるナオには、研究所に兵士がいるかも分かるのだ。
「うん、分かった。じゃあ、人目につかないところがいいよね……」
「ごめんな」
「いいよ別に」
どこが良いかなー、とエルが下を見下ろす。
その横顔は、なんか……グッとくる。もともと顔立ちが整ってたけど、こうやってよく見ると、改めて綺麗だなぁと思う。じいさんの生首がすべてを台無しにしてるけども。
よく考えてみると、この世界には美形が多い。エルを始めとして、アラン、リオラ、軍隊長とかも。くぅとナオだって人間に変身したら美形だし。じいさんだって、今は顔しわくちゃでもよく見たらイケメンだって分かる。城にいた召使いだって、コックだって、ユニシロにいた客だって、レジのあの人だって、地下牢の看守だって、兵たちだって、地下牢の罪人ですら、羨ましいほど整った顔立ちだ。高校では俺の顔は中の下ぐらいで、顔さえもどこにでもいそうな人だったけど、この世界では俺の顔なんか下の下だ。そんなつもりはなかったけど、イケメンへの羨みがあったのかもしれない。それが、この世界に影響したのかも……。
「どうしたんですか?高良さん」
「いや、何でもない……」
「そうですか、ならいいけですけど。またネガティブにならないで下さいよ?」
「ああ……」
アリシアなんか、そのままでも可愛いのに〈アラン〉でもカッコいいもんなぁ……って、あれ?もとがアランなのか。あれ?ダメだ、この話題はやめよう。こんがらがってきた。
「…………あ、そうだ」
ずっと考え込んでいたエルが、ようやく顔を上げた。
「ん?決まったのか?」
「うん。あのね、くぅ、ナオ。あっちの方に向かってくれない?」
「くぅっ!」
「もちろんっ!だとよ」
「うんっ。よろしくね!」
「くぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!」
「ナオオオオオオオオオ!」
くぅとナオが、意味不明な雄叫び(?)を上げて一気に上昇した。
「うわっ」
いきなりの急上昇に対する圧力で、一瞬潰されそうになる。痛い痛い、背骨がゴキッといきそう。でもガムを持つ手を離さないのは、自分でもえらいと思う。
前を見れば、エルは余裕そうに鼻歌を歌いながら生首を抱えている。空の上、可愛い少女と生首。うん、絵面がおかしい。
「さ、さすがだな、エルちゃん……」
アリシア……いや、アランが苦しそうに言う。アランも余裕なのかと思ったけど、そこはやっぱ看護所勤務の癒しの天使。俺と同じように、圧力で潰されそうになっているらしかった。〈アリシア〉から〈アラン〉に戻ってるのが、その証拠だ。首が痛くて後ろが見えない。
「やっぱ、鍛えてるだろうからなぁ……。軍人は違うぜ」
「そうだな…………ん?」
突然、圧力が無くなった。虚を突かれて、思わずガムを持つ手を離しそうになる。
「うおっ!リオラ、悪ぃ」
また何か文句が来るかと身構える。でも、いつまで経ってもガムからは物音一つ聞こえない。
「リオラっ?あれ、リオラ?リオラ!」
まさか、ガチでガムで窒息死しちゃった系?いやでも、さすがにガムで窒息はないだろう。
ガムに、よーく耳を澄ませる。ん、何か聞こえてきた。何だ?
「すー……、すー……」
「って寝てんのかよ!」
よく寝れたな!そういやいつも眠そうだったよな。夜行性とか言ってたけど。
「高良さん?どうしたんですか、気が抜けた顔して」
あ、アリシアに戻ってる。
「いや、何でもねぇ……」
こんなこと、わざわざ言う必要ねぇよな。まったく、リオラも人騒がせな……。ほんと、ガチでびっくりしたぜ……。死んだのかと思った……。
「あ、そこそこ!そこに降りて!」
エルが、二匹に指示を出す。墓場が見つかったのだろうか。
「って、あそこって」
「ふふ、気づいた?」
「何ですか?私だけ仲間ハズレにしないで下さい」
ぷぅ、とアリシアが頬を膨らませる。あぁ、可愛い……。癒される……。アリシアが、男じゃなかったらなぁ……。
「それで、エレオノーラさんが指差してるのってただの丘ですよね?あそこに、何かあるんですか?」
そう。
エルが指差したのは、丘だった。
アリシアにとっては、ただの丘。何もない場所。
それでも、俺とエルにとっては思い出の場所。出会いの場所。そして、すべての始まりの場所だ。
「久しぶりだな……」
くぅとナオがゆっくり旋回して、丘に着地する。俺たち四人は、二匹から飛び降りた。




