第43話 脱出
「着いた……」
崖の底。今まで狭かった空間が、いきなり開けた。ものすごい開放感で、思いっきり息を吸う。
頭上に広がる青空は、近いようで遠い。
「ってかこれ、どうやって上がるんだよ」
車は大破してる。リオラは降りて来た時と同じ方法でいけるかもしれない。エルは、どうだろう。精神的にも難しくないか?
「僕とくぅの背中に乗れば、時間はかかりますけど全員運べますよ」
ナオがそんな魅力的なことを言い出した。なんだよ、そんな方法があるんなら最初っから言えよなぁ!俺、気絶し損じゃねぇか。
「まあ、くぅは手加減が無理なので本っ当に急いでるときにしか使わないんですけどね。落ちたらすいませんね?」
怖っ!何か今怖いこと言った!まあ、くぅならありえそうだけど!
「ちなみに、降りるのはくぅ苦手で、だからやらなかったんですよ。もう落ちる感じになるので」
うん、やらなくて正解だった!俺結局落ちたけどな!
「じゃあ、乗ってください」
ナオはそう言うと、ドラゴンの姿になった。隣にくぅが寄り添う。
「これ、一気に乗っていいの……?飛べる……?」
リオラの心配も無理はないだろう。何しろ、くぅとナオはドラゴンとはいえ子供。二人乗ってもう隙間がないぐらいだ。
「分ければいいんじゃねぇの?」
「ぐすっ、ナオが、全員運べるって言ってた、から、うぇっ、大丈夫、なんじゃ、ないの?」
うん。エル、悪いけど言ってること半分以上分かんねぇ。まず鼻かめ。
「そうだね……。じゃあ、エルとアリシアは背中に乗って、高良は……頑張って」
「どういう意味!?」
いや、確かにエルとアリシアが背中に乗ったら俺が乗るスペース無いけどな!レディーファーストだもんな!
「っつーか、お前はどーすんだよ」
「私……?」
「おぅ。エルと俺とアリシアのことしか言ってなかっただろ」
「私は、他に飛ぶ道具があるから……?」
「は?」
「これ……」
リオラが取り出したのは、どっからどう見てもガムだった。
「なんに使うんだよ」
「これは、ただのガムじゃないの……」
「ああ、降りてきたときみたいな改良品か?」
あれすごかったよな。壁走ってたもんな。
「うん……。今度はね、モンスターの唾液じゃなくて皮膚から取り出した繊維を塗ってみたの……。ものすごく、伸び縮みするんだよ……?」
「ふぅん。で、それをどうすんの?」
「こうやって……」
実践してくれるようだ。ガムを取り出して、噛んで、風船を……あ、風船ガムだったのか。
「っておい!膨らみすぎだけど大丈夫か!?爆発とかしねぇよな!」
「大丈夫だよ……。そのための、繊維なんだから……」
リオラが言う通り、風船はいくら膨らんでも割れない。どんどん膨らんで、ついには俺が中に余裕で入れるぐらいの大きさになった。
「じゃあ、お先に行くね……」
え、それでどうやって行くんだよ?
「ほっ」
ぷしゅ~っ
……リオラが飛んでった。
分かりやすく言うと、膨らんだ風船ガムにリオラが乗っかって、風船ガムの空気が抜けて、すごい勢いで飛んでった。
「原始的だな!」
まさかの。つーか、あれで着地できんのか?途中で割れたりしないよな。
パァンッ!
「あ」
割れた。
ズドンッ
落ちてきた。
「っておい!大丈夫か?」
「大丈夫だよ……」
「?リオラどこだ?」
「ここ……」
割れた風船が塊になって、ものすっごいネバネバしてる。しかも、リオラの声が出てるのはその塊の中っぽいし。
「……悪ぃ、しばらくそのままでいてくれねぇか?担いどくからさ」
さすがに、リオラを助け出すのには時間がかかるからな……。
「うん……分かった……。落とさないでね……」
「おう。……息、出来てるか?」
ガムで窒息死、なーんてことは……無い、よな?
「大丈夫、だから……」
そう答える声は少ししんどそうで、だからやっぱり心配だった。




