第41話 バッカじゃねぇの
「…………」
それを聞いた俺らは、何も言うことがなかった。俺以外、みんな人間がモンスターになった事件を知ってる。どんなに悲惨だったのか、どんなに大変だったか。エルなんか、当事者だし。
リオラは知ってるみたいなこと言ってたけど、そこまでは知らなかったらしい。眠そうな目を大きく見開いて、じいさんを凝視している。
そんな話を聞いて、俺が言うことは一つだった。
「バッカじゃねぇの」
みんなが、ハッとしたように俺の方を向く。でも、俺は止まらない。
「バッカじゃねぇの、バッカじゃねぇの、バッカじゃねぇの!?それで、今もまだ実験してるってか!モンスターを増やし続けてるってか!いったい、そのせいでどんだけの人間が死んだと思ってんだ!それに……」
言いたいことはいっぱいある。でも、上手く言葉にならない。
俺は、ただ思いついた言葉を、そのまま叫んだ。
「お前、自分が何したか分かってんのか!それでよく、実験なんかしてられるな!自分が創ったモンスターを解剖する気分はどうよ?気持ちいいか?政府の奴らに復讐できた、って思えるか?お前は、どんだけ悪いことしたか分かってんのか!お前は、お前は……」
思い出すだけで、涙がこぼれてくる。
洞窟の前。泣きながら、傷跡を見せてくれたエル。思い出したくもなかっただろうに、自分の過去を話してくれた。犯人は許せない、復讐してやる、と叫んだ。みんながうらやましい、誰も私の気持ちが分からない、と嘆いた。家族を一気に失って、それでも諦めずに前に進んだ。
「お前はな……エルの家族を、殺したんだぞ!なのに、なのにエルの傍にい続けた。味方のフリして、ずっと裏切ってた。自分の願望のために罪のない人を殺して、絶望的な思いをさせて。それでよく、エルと一緒にいれたな!」
エルが家族を失ってどんな思いをしたか、知ってるくせに。間近で、見続けてきたくせに。
―――博士がいなかったら、今の私はいないわ
泣きながら、そう言った。
―――博士は、私の唯一の味方だったの
微笑みながら、そう言った。
―――私は薬を撒いた奴に、私の家族の仇に、復讐してやるの!
目を憎しみでいっぱいにして、そう叫んだ。
エルにとって、じいさんは味方であり、信じていた相手であり、尊敬していた人だった。
でも―――それと同時に、家族の仇だった。ずっと、憎んでいた相手だった。
博士に助けてもらった、とエルは言っていた。いったい、じいさんはどんな気持ちで接していたんだろう。俺だったら、とても耐えられない。
自分の願望のために関係のない人を殺してる時点で、こいつはもう、人間じゃないんだ。
「はぁ……」
まだまだ言いたいところだけど、俺はこれで終わり。俺たちは脱獄したんだから時間がないんだし、それに。
「博士」
俺の背後で声がした。無言で後ろに下がる。俺よりもずっと、言いたいことがあるだろうから。
ベチンッ!
「…………」
うわー、いい音したな、今。まさか初っぱなからビンタとは、思ってもみなかったぜ。
「ずっと、騙してたのね」
くぅの炎でぼんやりと照らされたエルの顔には、たくさんの涙の痕が見られる。
「信じてたのに。信じてたのに。信じてたのにッ!」
バッと、コートが翻った。
「高良、ごめん」
気がつくと。エルは、じいさんを押し倒していた。その手には、しっかりとナイフが握られている。コートに仕込んであったナイフだ!
「復讐、しないって言ったよね。あの時、高良が言ってたでしょ?『親がせっかく守ってくれた命を、そんな事に使いたくなかった』って。カッコいいと思ったの。だから、誓った。私の復讐じゃなく、この国の平和のために。軍の一員をして、犯人を捕まえるって。でも、これは違う。私自身の、復讐なの。ごめんね。約束、破っちゃう」
淡々と語りながら、しかしその目だけはじいさんから動かない。
「やっぱり、私。犯人が、許せない」
そんな、憎しみに満ち溢れた言葉と共に、ナイフが一閃し。
じいさんの首が、転がった。
「エル!」
慌てて駆け寄る。やるだろうとは思っていたけど、まさかこんなにあっさりいくとは。
「博士、騙してたんだよ。私の家族、殺したのよ。でも、でも……」
エルが、虚ろな目で呟く。
「私のことを心配してくれたのは、本当だと思うの。そう、思いたい」
泣きはらした目から、また新たな涙がこぼれる。
「ねぇ、高良。私、間違ってないわよね?」
「ああ、ああ。エルは、軍の一員として、ちゃんとこの国を守ったんだ」
エルを思いっきり抱きしめる。
辛い決断だっただろう。ずっと慕っていた人を、殺したんだから。
「うっ、うぅ、うわあああああああああああああああああああああああああああああ」
エルが、ずっと握っていたナイフを落とす。そして、俺を抱きしめ返してきた。




