第38話 隠れ場へと
気がついたら、そこは冷たい地面の上だった。まだふわふわ浮いている気がするけど。
「あれ……?」
「何気絶してるの、ヘタレ」
「目覚め早々ひどい暴言が……」
また眠ってしまいたい。
「びっくりしたよ~、まさかあれぐらいで気絶するなんてね」
「あれぐらい、じゃねぇっ!今まで乗ったどんなジェットコースターよりも速くて怖くて、びっくりしたんだからな!」
「じぇっと……」
「こーすたー?」
みんなが意外な反応を見せる。あれ?この異世界って、時々異世界だって忘れそうになるほど俺がいた世界に近いはずなんだけど……。
「まさか、遊園地ってないのか?」
「ゆーえんち?何よ、それ」
ここに来て衝撃の事実!俺が作者だからか知らねぇけど無駄に日本っぽかったこの異世界に、遊園地はない!
「えええええええ」
あると思ってた……。
「で?なんなの、そのゆーえんちって」
「遊園地はなぁ、それはもう楽しい場所なんだ。アトラクションがたくさんあって、老若男女みんなが楽しめるんだ」
「へー良いなぁっ!」
「公園みたいなものかしら」
あ、公園はあるんだ。まあでもそうだよなぁ。公園もなかったら遊び場ないもんなぁ。
「高良、創世主なんだったらなんでそんな楽しそうな場所創ってくれなかったんだよ……ってあ」
アランが、途端にしまった、って顔になる。俺のことを創世主と呼んだからだろう。気のせいか、空気も少し硬くなったような……
「そんな顔すんなよ!気にしてねぇから!」
そのセリフに、アランの顔と空気がふっと緩んだ。
やわらかい空気。ほっとして立ち上がると。
バァーンッ!
「何、何、何!」
ほっとしてたところに爆発音が聞こえてきたから、思わずあたふたする。何だよ、いきなり。
「あ、私の車爆発しました♪」
「あ、なるほど。その爆発音か。まあ、爆発して当然じゃね?あと、いきなり〈アリシア〉に戻るのやめろ。びっくりする」
「だって、エレオノーラさんにバレるわけにはいきませんからね♪私としたことが、すっかり直すのを忘れてました♪」
「うるさい、もう手遅れだろ。あと、その語尾やめろ。お前、語尾に♪つけるようなキャラじゃねぇだろ」
「ここに降りてくるとき結構無茶しましたもんね」
「話聞け!あと、あれは降りてくるじゃねぇからな!落ちるだからな!」
「はいはい」
ったく。人生の中でもベスト3には入る恐怖体験だったんだぞ、あれは。
「そこ、無駄話しすぎよ!さっさと行くわよ」
エルの声が結構遠くから聞こえる。でも暗闇で、エルがどこにいるのか分からない。遠くで聞こえてるはずなのに、反響して近くで聞こえるのが不思議だ。
「どこに?」
隠れ場っていうのは、ここの事なんじゃないのか?
「兄さん。ここだと、もしかしたらバレるかもしれません。目が慣れてきたら見えるようになると思いますけど、この崖の底にはいくつもの洞穴があります。その洞穴はたくさんありすぎて、どれか一つの奥に入ってしまえばなかなか見つからないはずです。中は迷宮みたいになってますしね」
「ふぅん……」
「じゃあ、行きますよ」
ナオの声と共に、みんなが頷く気配が少し分かった。ごくり、と唾を飲み込む音が聞こえる。
「足元には気をつけてくださいね?」
はーい。
まあ、こんな崖の底の洞穴なんて、整備されてないよな。
「一応、私が照らしておくからねっ!」
そんな言葉と共に、一箇所がぼぅ……っと明るくなった。くぅの火だろう。なるほど、よく考えたな。
ナオの気配、その他のみんなの気配、そしてくぅの明かりを頼りにして、俺は洞穴へと足を踏み入れた。




