第34話 懐かしの地下牢
「高良……」
地下牢では、前のように毎日、エルが食事を届けてくれていた。
でも、前とは違う。エルの俺を見る目つきが。
それに。
いつも、エルと一緒にリオラとアランが着いてきていた。
「これ、今日のご飯」
差し出されたのは、また腐ったりんご。
「懐かしいな……」
冷たい地下牢。じめじめとして、狭く、暗い。
俺には王宮よりこっちの方がお似合いだ。思わず、そんな自嘲したことを考える。
「ね、ねえ高良。今、高良の処分についての会議が毎日行われてるの」
「処分?俺はもう、この地下牢に入れられてるぜ」
「そうじゃないの。あの……死刑にするか、どうかよ」
「死刑か……。ま、当然だな。二ヶ月近くもみんなを騙してきたんだから」
どうせ、俺が生まれ育った世界に俺の帰りを待つ家族なんていない。だったら、この世界で―――自分で創った世界で死ぬのも、悪くないんじゃないか。
「ま、まだ決まったわけじゃないのよ!今、軍隊長が抗議してて……」
そこまで言って、エルは泣き出す。後ろからリオラが出てきて、エルに代わって説明をしてくれた。
「軍隊長は、この二ヶ月間、高良の予言のおかげでたくさんの命が救われたことは事実だ、と訴えてる……。少数だけど、その意見を支持してる人もいるから……。死ぬ、なんて言わないで……」
「そっか」
あのおっさんも、頑張ってくれてんだな。
「あと、これ……。腐りかけの物ばっかりじゃ、もたない……。このチョコ、あげる……。あと、このキャンディーと、このクッキーと、この非常食用のモンスターのお肉も……」
白衣のポケットから、次々とお菓子が出てくる。四次元ポケットかよ。んで、なんでそんなにお菓子入れてるんだよ。
「チョコレートは、カカオの種子を発酵・焙煎したカカオマスを主原料として、これに砂糖、ココアバター、粉乳などを混ぜて練り固めたお菓子……。略して、チョコとも言う……。エネルギーは、570キロカロリー……。だから、食べると太りやすいの……。それでね……」
元気付けようとしてくれてるのか、またまたリオラのお菓子ウィキ○ディアが始まる。
「ありがとな、リオラ。エルも、アランも」
ちょっとは元気出たよ。そう言って笑ってみると、三人ともほっとした表情を見せた。
「じゃ、じゃあね、高良」
おう。また明日な。
「元気にしといてくださいね!もし風邪引いたら、私が一発で治してさしあげますから」
風邪なんかに力使うなよ、もったいない。その気遣いだけ、受け取っとくな。
「じゃあね……。栄養が高いお菓子、開発して持ってくる……」
じいさんみたいな青汁はやめてくれよ?
大きく手を振って、三人を送り出す。その姿が見えなくなった時、俺は手を下ろしてため息をついた。
「死刑、ね……」
三人の前では元気にふるまったけど。本当は、結構しんどい。
前に地下牢に入れられた時は、一人暮らしで一日一食なんてこともあったから、結構耐えられた。
でも、毎日毎日おいしい食べ物をたくさん食って。ふかふかの布団で寝て、たくさんの人に囲まれて。
そんな生活から急激に変化したから、体が戸惑ってるらしい。
「結構、ヤバいかもな……」
手のひらは、ちょっとずつと骨と皮だけになってきてる。足も細くなっていってるし、足かせをされている場所は青く腫れている。
「これも罰なんだろう」
軍隊長がいくら抗議してくれたって、結局俺は死ぬ。
会議が長引けば長引くほど、俺は飢えて痩せ細っていく。
会議が早く終わっても、九十九パーセントの確率で俺は死刑だろう。
もし死刑にならなかったところで、俺はこの地下牢から出られない。出してもらえても、行く場所がない。
どうせ、死ぬんだったら。
死刑で、みんなの前で。最後にちゃんとお別れして、一瞬で死ぬ方が。
良いんじゃ、ないのか―――?
死刑を求める気持ちがあることに、俺は戸惑っていた。




