第32話 エルの本音
夜も更けてきた頃。俺が寝ている部屋に、誰かが訪ねてきた。
「……エル」
暗闇でもよく映える、オレンジ色の髪の毛。
「こんな夜中に何しにきたんだ」
「お礼を、言いに来たの」
「お礼?」
「うん。ドラゴンから助けてもらった、お礼」
「それなら、もう何回もしてくれたじゃねぇか。コートとか剣まで作ってきてくれて」
それ以上、何をしようというんだ。
「ねぇ、高良。前に、私の家族の話をしたでしょ?覚えてる?」
「…………ああ」
忘れるはずがない。
「あの時ね、私、狂いそうだったの。目の前で、お父さんも、お母さんも、お姉ちゃんも、みんな死んで。私も大ケガをして。狂って、そのまま自殺しちゃおうとしてた」
しみじみと語るエル。その目からは、涙がこぼれている。
「そんな時にね、博士が助けてくれた」
「博士?」
あの、言っちゃ悪いけどよぼよぼのじいさんが?
「博士は、毎日励ましてくれた。傍にいてくれた。色々、楽しいところに連れてってくれて。博士は、私の唯一の味方だったの。博士がいなかったら、今の私はいないわ」
そう言って、にっこりと微笑む。
そこまで慕ってたのか、あのじいさんのこと……。
「それは、高良も同じ。高良がいなかったら、今の私はいないもの。良かったわ、あなたを捕まえることが出来て」
一瞬、何のことだか分からなかった。
「ああ、一番最初に会った時な」
「ええ。あなたがモンスターに食べられそうだったから、助けて捕まえたでしょ?」
くすくす、とかわいく笑う。笑い事じゃねぇからな!俺、あの時ガチで死ぬかと思ったもん。
「それが言いたかっただけ。ありがとう」
そう言うと、エルはまた立ち上がる。
「ばいばい」
エルの姿は、ドアの向こうに消えていった。




