第29話 守ってくれて、ありがとう――。
「……からっ、た……!」
あれ、どこかで声が聞こえる。
うるさいなぁ。ここは、とっても気持ちいいんだ。ここにいると、とても落ち着く。
「た……………ら!」
ああもう、うるさい。
でも、あの声は聞き覚えがある。誰の声なんだろう。
「たか……っ!」
俺は、いったい誰なんだろう。もう少しで、何かが思い出せる。俺は……
誰か、大事な存在を忘れてる気がする。脳裏に浮かぶのは、ぼやけた顔、黒いコート、そして―――オレンジ色の、髪の毛。
「エルッ!」
ぱちっと目を開く。目の前にあったのは、号泣してるエルの姿だった。頭とかに包帯を巻いてて、痛々しい。でも……
「良かった、生きてて……」
少し動くだけで痛むからだを無理やり起こして、俺はエルを思いっきり抱きしめた。
「ちょっ、高良、何すんのよ!」
「ひゅーひゅー。お二人さん、熱いねー」
いきなり抱きしめられたことに戸惑うエル、茶化す兵たち。アリシアは、俺に力を使い果たしたのかぐったりしてる。
それでも、俺はただ繰り返した。
「良かった、本当に良かった……」
思わず、ぽろぽろと涙が流れた。その涙はシーツに落ちて染み込んでいく。でも、それに文句を言う人は誰もいなかった。エルは静かにぽんぽん、と背中を叩き、周囲に集まっていた人もみんな、静かになっている。
「私も、ごめんね……。守ってくれて、ありがとう……」
エルの囁きに、首を横に振る。
「守れなかった、よ……ぐすっ。実際、エルはケガしてる……」
「でも、死んでないわよ?」
「そうだな……っ……ひっく……ぐすっ……」
部屋には、俺の泣き声だけが響いていた。
みんなの気遣いが嬉しい反面、少し恥ずかしかった。




