第28話 神様は、ヒロインを救えるのか
「くそっ!」
知ってたのに。エルが死ぬのを知ってて、助けるために来たのに。うかつだった。
「どりゃあぁぁぁぁぁぁぁっっっっ!どけどけどけーっっっ!」
剣を振り回し、銃を発砲し、エルと俺との間に立ちふさがっているモンスターをなぎ倒す。剣の振り方もめちゃくちゃで、とにかくエルだけを見て必死に前へと進む。
「おりゃおりゃおりゃぁぁぁぁーっっっっ!」
兵の一人が『強そう』と言っていたモンスターをどうやって退けたのか分からない。とにかく俺は夢中で、エルのことだけを考えていた。
「うがっ!」
腕に何かが刺さる。モンスターの、牙……?
「しまった、油断した……」
膝に力が入らない。腕から流れる血が、地面を赤く染めていく。
どさり。
気がついたら、目の前に地面が広がっていた。
「く、そ……」
そうこうしている内に、ドラゴンの尻尾が大きく振り上げられる。
「だめだ……力が、入らないや……ははっ」
結局、目の前でエルを亡くすのか。俺は、自分で描いたバッドエンドも変えられないのか。
俺は、とにかく平凡で、どこにでもいるような普通の男子高校生だった。
才能がある奴に嫉妬して、もう夢を諦めて。普通のサラリーマンになって、普通に結婚して、普通に一生を終えるのかと思っていた。むしろ、それが俺にとっては幸せなんだって、達観した気になっていた。
だけど。
友達から借りたラノベで、同い年の奴が立派に働いてることに胸を打たれた。
俺も、あんな風になりたいと思った。小説家じゃなくてもいい。なにか努力して、こんな人生で良かったって思えるような一生を過ごしたい。そう思って、手始めに小説を書いてみた。文法もめちゃくちゃ、内容も支離滅裂、でもとにかく書いた。
そこで、思ったんだ。
確かに俺には才能がない。顔も、勉強も、スポーツも平凡。もう努力することすら諦めていた。
でも。
―――根性と努力は、不可能を可能にする。
って。
平凡がなんだ。今まで平和に暮らしてきたから戦いは無理?苦手?ハッ。
高良陽、お前は何なんだ。
創世主だ。この世界も、あのドラゴンも、エルも、俺を刺したモンスターも。みんなみんな、俺が創った。
その責任は、負わなくちゃいけないんじゃないだろうか。
俺がモンスターを創ったせいで、今こんなことになってる。
なら、俺が真っ先に立ち向かっていかなくちゃ。
「…………っ」
俺は、立ち上がっていた。
もう、尻尾は振り下ろされている。ここからだと、多分間に合わないだろう。
でも、俺は何度もエルに助けられてきた。
創世主として。男として。
エルを、絶対に助けるっ!
固い地面を踏みしめ、走り出す。
間に合え。間に合え、間に合え、間に合え、間に合え、間に合え!
心の中で、ひたすらそう唱え続けて。
初めての戦いでエルにしてもらったように。
俺は、何のためらいもなくエルと尻尾の間に滑り込んだ。
「高良!」
背中に鋭い衝撃が走る。やっぱり、エルみたいに無傷で助ける、ってわけにはいかなかったか……でも……これで……
救護所のある方向に向けてガッツポーズをする。俺はそのまま、意識を失った。




