第25話 癒しの天使の正体は
「ここだったよな」
目の前に建つのは、あのカフェみたいな、おしゃれな建物。間違いない、救護所だ。
「失礼しまーす」
誰もいない。廊下に血が落ちてるあたり、また負傷者が運ばれているのだろうか。
「なら、アリシアも忙しいかな……」
俺の個人的な相談より、仕事の方が優先だ。忙しいのなら、諦めて研究所に向かおう。
「あれ?あなたは、前にもいらっしゃってた……」
突然、そう呼び止められた。あわてて後ろを向くと、知らない女の人が立っている。
「アリシアに何か用かしら?」
「あ、ちょっと相談があって……。忙しいのなら帰るけど」
「アリシアなら、今汚れたタオルを洗いに行ってるわ。今人手は余裕があるし、相談があるのならいいわよ。アリシアは、あそこの部屋にいるから……」
その女の人の説明が終わる前に、俺はアリシアがいるという部屋に向かっていた。
「アリシア!」
ドアを勢いよく開ける。と、誰かが飛び出してきた。
「いたたたたた……」
「アリシア!」
「あ、高良さん!どうしました?」
「いや、ちょっと相談があって…………ん?」
背中に妙な感触が……
「なんだ、これ?」
背中の後ろにあったのは……胸パッド?しかも、こんなにたくさん!
「なんでこんなところに……」
アリシアに視線を戻す。ん?
「アリシア、胸がしぼんでる」
「あ」
アリシアの巨乳は、真っ平らになっていた。ん?んん?
「まさか、この胸パッドってアリシアの……」
「ちっ、違います!」
「でも、そうじゃないとこれは説明がつかない……。あ、アリシアって実は貧乳…」
「バレたら仕方ないか。俺は実は男……え、貧乳?あ、そうですそうです。実はそうなんです」
「ん?アリシア、今男って………ええええええええええええ!」
アリシアが、男ぉ!?
「あーあ、バレちゃった。そうだよ。私、いや俺は実は男なんだ。アリシアなんてのは架空の人物。俺の名前はアランていうんだ。よろしく」
「あ、あぁ。よろしく……」
口調ががらりと変わる。変化はそれだけでなく、ふわっふわの金髪がなくなった。それ、カツラだったのかよ!声の高さまで変わって、まるで別人だ。
そういえば、最初にアリシアに会った時、俺思ったっけ。『こんな子、俺創ったっけな……?』って。
その疑問も、今なら納得できる。俺が創ったのは、《アリシア》じゃない。《アラン》なんだから。
「な、なぁ」
「ん?何?」
「なんで女装してたんだ?」
そこだけが気になる。いや、他にも気になることは山のようにあるけど。一番気になるのは、やっぱそれかな。
「んー、趣味?」
「趣味!?」
女装が趣味…………変人?
「っていうのは嘘で、俺は癒しの能力を持ってるだろ?その力を使うには体にさわんなきゃいけないんだけど、男が女の体に触るっていうのは嫌がる人も出てくるんだよ。でも、女だったら同姓だしいいや、ってなるし、男でも女に触られて嫌な奴いないからね」
「へー……」
「それに、癒しの天使ってあだ名ついてるだろ?誰が言い始めたのか知らないけど、『天使』が『男』ってなんかあれじゃん?それで」
そんな理由で女装なんかしてたのか……。大変だな……。
「それに、俺女装すると結構美人なんだよね。それで男を誘惑すんのって、結構ハマるんだよ。口調も『尽くす女』っぽくしたりして、性格も優しくして、いつも笑顔で。まあ、笑顔の裏側で腹黒いこと考えてんだけど、そうとも知らずに男はたくさん寄ってくるし」
前言撤回。アランはまったく大変じゃなさそう。むしろ、楽しんでるみたいだ。
「それで?ここに来たのって、俺に何か相談があったからなんだろ?」
「ああ、そうそう。前に俺、エルっていう兵士と一緒に来ただろ?」
「エル……ああ、あのエレオノーラっていうなかなかの美人?」
「…………まぁ、そう。で、俺は創世主。創世主の仕事が何か、知ってるか?」
「予言、だろ?あとは自由気ままに生活してるんだっけ。良いよな~、そんな生活。俺もしてみたいよ」
「…………とにかく。それで、その予言で分かったんだ。エルが、明後日戦死する」
「あんな美人を、モンスターなんかとの戦いで亡くす?もったいない!」
「もったいないかどうかは置いといて。俺は、エルがその戦いで死ぬのを阻止したいんだ」
「いいぜ、協力する」
「早っ!」
「あんな美人、死なせるわけにはいかないもんな。さて、作戦練ろうか」
「あ、ああ……」
やる気があるのは良いことだし、協力してくれるのはものすごくありがたいけど……なんか、アリシアの時とイメージが違いすぎて今だに戸惑ってるんだけど。
「早く座れよ」
「ああ……」
釈然としないまま、俺たちは作戦会議を始めた。




