第19話 憧れの大人買いをしていると問題発生!
「これとかどうかなっ?」
「んー、似合うんじゃないか?」
「僕、どれが似合うかな?」
「ナオはなんでも似合ってるって。欲しいと思ったものを買うといいよ」
服選びなんかあまりしない俺にとって、この時間はものすごく新鮮だ。まさか……まさかっ、『欲しいと思ったものを買うといい』なんて金持ち~な言葉を言う日が来るとはっ!
試着室では、一気に十着以上の服を持ち込んだくぅが注意されながらも、ファッションショーを楽しんでいる。
「お兄さん、僕、これが欲しいな」
遠慮気味にそっと言うナオ。買い物かごには女物の服ばかりが山積みで、男物――つまりナオのものは少ない。
「おう!どんどん入れろ」
ちょっと調子に乗って言ってみる。ああ、こんな大人買いが憧れだったんだよなぁ……。
「お兄ちゃんっ……」
「なんだ、くぅ?さっき着た服の中で、良いものあったか?」
「あー、今着たやつは全部かごに入れといたよっ!そうじゃなくてねっ……」
「全部?」
見てみると、買い物かごの山が更に膨れ上がっていた。
「それでねっ……あのっ……………下着、も必要だと、思うのっ………」
「え?なんて言った?」
声が小さすぎてよく聞こえない。
「……………だからっ…………下着……」
「へ?だから声が小さいって」
そんなもじもじして言われても、まったく聞こえないって。
「……………だからっ…………………」
くぅの声はどんどん小さくなっていく。なにが言いたいんだよ。
「下着がっ、いるとっ、思うのっ!!!!!」
「……………は?いや、ちょ、待てって」
いきなりなにを言い出すんだこいつは。周りの人の視線が全部こっちに向いてるし!
「あ、いや、その、これは……」
周りの人にあわてて弁明する。これで変人だと思われたらたまらない。
「だから、そのっ……………あぁ、もうっ!くぅ、ナオ、来いっ!」
「え、え、えっ?お兄ちゃん、下着は~っ?」
「くぅ、そういうことは人前で叫んじゃだめだよ」
くぅとナオの手をつかんで、レジへと向かう。もう服選びなんかしてられない!とにかく、今かごに入ってる服だけでも買って……。
「これ、全部ください」
「は、はい……。あの、ポイントカードは……」
「持ってないしいらないっ!」
「で、では代金を……」
「このカードで!」
「か、かしこまりました……」
店員もすっかりビビッて、あわてて袋詰めをしている。まったく、お前のせいだからな、くぅ。
「どうぞ……」
「どうも」
店員が渡してくれた特大の袋を持つと、俺は二人を引っ張ったままあわてて店を出た。