9
「あの」
アイは何故か微かに色づいた桜のように顔を赤らめた。
「優しく……してくださいね?」
「だから何を?」
なんでこうこの女達はヤル気満々なんだ?
欲求不満か?
大体、アイはやってる場合じゃないだろう。
あの制服をみるかぎり、ただ事ではないはずだ。だがしかし、警察に連絡する気にはなれなかった。どうしてだろう。頭の中央に針が刺さっているみたいだ。何かを忘れているというより、これから何かを知る予感がする。
なによりも。
この少女は夢の中の少女に似てい気がした。
“カレイドスコープ”
〈アイを愛して、アイを抱きしめて、アイを見つめて、アイを愛して下さい〉
この状況を、どう解釈するべきなのだろう。
あのあと、物欲しそうな奈瑞菜さんから逃げて俺の部屋に引き上げた。勿論、アイも連れてである。アイを万年床に寝かせる分けにもいかないので奈瑞菜さんに布団を一組かりて、アイを寝かせた。筈なんだけど。
何故かアイは俺の上で眠っていた。
柔らかな感触が俺の腹あたりにあり、ちょっと理性が飛びそうである。早くなる鼓動と、軽い渇きを覚えながら、首をひねってアイを見やる。
アイは無防備な表情で眠りこけていた。しっかり肩まで掛け布団をかぶる姿はかなり愛らしい。暖かな彼女の身体を抱き締めてしまいたい衝動にかられる。が、実際にアイの頭を軽く撫でるだけにとどまった。
アイの髪は見た目よりずっと柔らかくて心が和む。アイはくすぐったそうに身ぎした。甘い吐息が小さな唇からもれる。もっと撫でて言うように、俺の胸に頭をすりつけてきた。
「起きてる?」
聞く。すると頭の動きがピタリと止まった。
「起きてません」とアイは言った。
「どいてくれないかな?」
苦笑いしつつ言う。これ以上アイの温もりにふれていたら離れられなくなりそうな自分を意識した。




