8
疑わしそうな視線に気づいたのか、奈瑞菜さんは無言で壁にかけてあるテレビのスイッチを押した。
「(放送禁止用語)(倫理規程違反)」
「(教育的配慮により検閲)!」
「うおう!」
奈瑞菜さんからテレビのリモコンをふんだくって、テレビを消す。
「ああ、もうちょいだったのに」
なにやらアイが人差し指を口にあて、残念そうに呟く。なにがもうちょいだったのだろうか。いや、触れないでおこう。
「えーと、アイちゃん? 考えはまとまった?」
アイは仄かに甘味のある微笑みを浮かべる。
「はい。わたし、悪い人に追われているのです。助けて下さい、レイジさん」
素早く俺の手を両手で包みこみ、上目遣いでアイが言う。
「警察にいけ」
半眼で突っぱねた。嘘にしろ本当にしろ、それが妥当な行動である。
「そんな……」
アイは可愛いらしく頬を紅に染めた。
「助ける代わりに身体を差しだせなんて……でも、わたし、頑張ります」
パジャマのボタンに手をかけるアイ。
「いや、誰もそんな事言ってないから」
アイはきょとんとして、ボタンから手を離した。
「着たままヤルのですか?」
「やらないから」
「わたし、やっていいかな」
「奈瑞菜さんは引っ込んでて下さい」
手をわきわきさせながら、アイに近づく奈瑞菜さんの首根っこを捕まえる。まったくこの人は油断する隙がない。
警察に連絡するのが手っ取り早いが、本人が嫌がっていては、気が引ける。かといって、奈瑞菜さんに預けると何をすることか。
となると。
俺の部屋に泊めるしかなさそうだ。
奈瑞菜さんは俺の考えを読んだのか、唇を三日月型に吊り上げた。
「焦っちゃ駄目よレイジ君、まずしっかりと……」
「何の話ししてんですか奈瑞菜さん」




