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 ただ何時も通り、紫煙をゆらゆらさせただけだ。だからどうしたと言わんばかりの態度。けれど俺はなんだか安心した。

 かわいそうだとか、苦労してるねとか、そんなおきまりの同情なんて俺は望んでいなかった。

 俺はただ、俺を俺として見てくれる人が欲しかったのだ。

 ああ、そうか。

 だからなのか。

 俺が求めているのは、俺を俺として見てくれる人。

 鷹乃宮が見ていたのは俺ではなく秋庭だ。

 そうだ、俺は俺だけを見てくれるから、アイを求めているんだ。

 ただひたむきに、ただ純粋に、俺を求めてくれたアイ。

 では俺は?

 俺はアイを純粋に、ひたむきに求めているのだろうか。俺はただ、都合の良い女が欲しいだけではないのか。

 自分自身に対する疑念は研究に影響を与えなかったものの、ずっと俺にまとわりついて離れない。

 思い悩みながら研究を続けて一年。

 俺はカレイドスコープへとアクセスする装置を作り上げた。学校には適当な書類をでっち上げて提出し、今はもう使われていない第四実験室の使用許可をとる。

 第四実験室にはプロトタイプ量子コンピュータが安置されていた。伊達や酔狂ではなく、文字通りの安置だ。実は現在の最新型より、単純な計算速度ならプロトタイプがすぐれている。ただし、供給されるエネルギーが計算速度と比例する。しかも、プロトタイプであるが故に安全装置などという気のきいたシステムもなく。一度起動すれば電力が途切れるか、CPUが焼ききれるまで計算し続けるじゃじゃ馬だ。

 カレイドスコープへのアクセス、しかもアイを連れ出す。この二つの暴挙を成すのにどれだけ計算が必要か。予測すら不可能だ。

「まさに打って付けだな。問題は電力供給源」

「核融合炉を一つハッキングしておいた」

 即答した俺に、秋庭はだろうなと肩を竦めて答えた。今だ自身に対する疑念は拭えないが、腹はくくっている。どんな手段を使ってでも、俺はアイを取り戻すのだ。

 量子コンピュータに積もった埃を払い、念の為、水冷ユニットを交換しておく。古いOSを最新に書き換え、カレイドスコープアクセスプログラムをぶち込む。インターフェイスとして繋いだノートパソコンのディスプレイに、緑色の文字が飛び交う。正直、ハードとして旧世代型であるプロトタイプに最新のプログラムが走るのか不安だったが、どうやら杞憂であったらしい。

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