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「そうだな、鷹だ」
鷹は重々しくうなずいてみせた。お辞儀をしているみたいで可愛いなとアイは思う。
「可愛いか、不気味がらないのはさすがだな」
鷹は動く筈のない嘴で器用に苦笑いを披露したが、アイは特に感銘を受けず、それよりも先ほどから心を読まれているのではないかと不安になった。
「残念ながら心が読める。理屈を聞かれても答えようがないけれど」
アイは何も考えないようにしようとしたが無理だった。様々な思いがふつふつと湧き出てくる。
鷹の声音は確かに聞き覚えがある。しかし、彼女が此処にいるなんて信じられない。
「信じる信じないは関係ないだろ。重要なのは事実だけ」
「けど、どうして貴女が此処に?」
鷹は淀みなく答えてくれる。
「来たかったから来た。あの不自由な世界に嫌気がさした」
「でも、此処にはレイジさんも秋庭さんもいません」
アイの言葉には切実な思いが込められていたが、鷹は飄々とした態度を崩さない。
「確かに、ね。彼らを俺は愛していたし、一緒にいられれば幸せかもしれない」
パチパチと鷹は瞬きする。
「でもね。俺はやっぱりこっちが良い。自由で、素朴で、孤独な世界が」
「それは貴女が孤独を知らないからですっ」
知らず知らず、アイの口調が高まる。
「貴女が秋庭さんやレイジさん、他にも沢山の人達に囲まれて生きてきたから、わからないだけですっ」
「何を?」
「すぐ、すぐにです。貴女も痛くなる。孤独に耐えられなくなるっ」
アイの瞳から涙が溢れた。
「此処は、此処は、嫌、誰もいない。誰もいないんです。人がいない。温もりがない。寒いんです。寒くて寒くて、私は、私はっ」
「もういい」
鷹は軽く頭をふる。
「もういい。アイ、貴女はもう苦しまなくて良い」
母性的な視線がアイを包む。
「話しを変えよう。愛とはなんだと思う?」
世間話しというように、鷹は急に深遠な質問する。
唐突な話題変更についていけず、アイはその場に膝をついた。あまりにも烈しく感情が高ぶり、身体の震えが止まらなくなる。




