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 部屋の中央に設置された量子コンピュータ。

 その前に白衣を掛けられたレイジがうつ伏せに寝そべっていた。レイジの顔はひどく穏やかだ。

「レイジ」

 鷹乃宮は静かに呼び掛けた。

 呼び掛けに答える気配はない。

「聞こえないふり?」

 鷹乃宮はレイジに歩みよる。握りしめられた拳が僅かに震えていた。

「レイジ、起きなさい」

 しゃがみこんでレイジの横顔へ手を伸ばす。指先が頬に届いた瞬間、鷹乃宮は弾かれたように手を引っ込めた。

 手の震えが全身に広がり、鷹乃宮はガタガタと震えだす。

「藍、もうやめておけ」

 ドアの近くにいた秋庭が、沈痛な面持ちで鷹乃宮を止めた。

「レイジはもう」

「黙れっ」

 決して声は荒げていないが、鷹乃宮は明らかに取り乱していた。ゆるゆると頭を振って長い黒髪を揺らがせる。

「今は、一人にして」

 秋庭は悲しげに何か言いかけて、結局なにもいわずに廊下へ消えた。残された鷹乃宮はもう一度手をレイジの頬へ伸ばす。

 はい上る冷気を身体の奥へ取り込む心地で手のひらを頬にそえる。

「馬鹿な奴だ、あんたは」

 もう開くことのない目蓋を睨み付けて、鷹乃宮は声を震わせた。

「好きな奴の為に死ぬなんて、今時流行らない」

 微かに手のひらに力がこもる。

「ねえ? レイジ、私はこの世界が大嫌い」

 鷹乃宮の唇がわなないて声にひびが入った。

「レイジ、なあ、あんたのいない世界なんて寂し過ぎる。アイも、もういない。どうしてなんだ」

 鷹乃宮は今にも泣き出しそうな顔を隠すようにレイジの冷たい背中へ頭を埋めた。

「どうして大切な人が次々いなくなるの? こんなに悲しい世界なんて、私は認めたくない」

 もはやレイジは何も語れないが、もし語れたとしたら彼が何を言うのか鷹乃宮には想像出来た。

 彼ならこう言うだろう。

『認めようと認めまいと、世界はあるようにあるだけだ』


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