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%幻想世界の君%


〈君の声を、君の瞳を、君の唇を、君の髪を、君の心を、君のすべてを、僕は、愛しても、良いのだろうか〉


 病院の二階から下を見下ろす。見張りをしていた連中が駐車場の方へ走っていた。どうやら上手く引っ掛かってくれたらしい。まあ、冬馬をモデルにしてアイの身体が作られているのだから当たり前である。俺でも騙されていただろう。

「レイジさん」

 呼ばれて見下ろす。薄暗い病院の廊下で幽鬼めいた雰囲気を従えたアイが体育座りをしていた。銀髪が月明かりを浴びて僅かに煌いている。

「さっきの話し、本気ですか」

 攻めるようでいて、怯えた子犬を連想させる瞳が俺に否定を求めていた。

「俺に噛み付いたくせに、随分大人しいな」

 ふっと、薄ら笑いを浮かべながら言ってやる。俺のことを変態呼ばわりしたくせに、そんな目で俺を見るなよ。アイには何時も悪戯な笑顔でいて欲しい。悲しい顔など見せて欲しくない。

「いつもはレイジさんがイジワルするからです」

 アイは唇を尖らせたが、俺にはイジワルした覚えなどない。アイに対しては何時でも正直に接しているつもりだ。考えが顔に出たのか、アイは呆れたようにため息をついた。

「そう、そうでしたね。レイジさんは」

 アイは何やら小声でぶつぶつと悪態をついている。声は小さすぎて聞き取れない。

「何がだ?」

 気になったので聞いてみる。しかしアイはそっぽを向く。

「いいんです。どうせ今のレイジさんに言ったて、分かりませんから」

 随分意味深なセリフだな。まあ、今は追求している余裕はない。俺の身体はもはや限界だ。鷹乃宮から貰った麻酔、いや麻痺薬でごまかして動いているだけだ。さほど長くはもたないだろう。


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