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「そういうな。こちらも仕事だ。大人しくついてきてくれないか」

 内籐のセリフは穏やかであったが、黒い瞳には爬虫類めいた不気味さが光っている。

「セリフと口調は合わせろ。むっつり親父め」

 先ほど知らんと言った方がまたも即座に言い返した。声からして女だなと内藤は気づく。

「はは、もうむっつりと呼ばれるような生活はしていないよ。わたしはとってもオープンさ」

「ようはエロ親父ってことだろ。威張るようなことか」

 内籐と女が舌戦を繰ひろげ始めたので蚊帳の外におかれた男たちは一斉に深いため息をついた。みな一様に、またかといった顔をしている。

「警部、時間が」

 内籐の後ろにいた男が呆れたように進言する。自覚はあるらしく、若干きまり悪そうに内籐が咳払いした。

「ついてこないなら、実力行使もじさないが」

 内籐はスーツの内側から拳銃を取り出す。同時に他の男達も拳銃を抜いた。

「潮時だな」

 女は呟き、フードを荒々しく跳ね上げた。カラスの羽ばたきに似た音が乾いた空気を振るわせる。現れた顔は男達が予想していたものとは違っていた。みな目を見開いたが、内籐だけは『へっ』と低く笑っただけだった。

「もうちょい時間が欲しかったな」

 もう一人のコートの人物も、こちらはゆっくりフードを外した。

「お前達は誰だ」

 問われて二人はにやりと笑う。

 夜の黒より黒い髪の気が強そうな女が不敵に答える。

「鷹乃宮」

 何処かやんちゃ坊主を思わせる男が気取った風に答える。

「秋庭」

 内籐はひらひらと手を振る。

「ああ、奴らの友人か。君らには用はない。アヴァロンは何処にある」

「聞かれて答えるとでも?」

「それもそうだ」

 内籐が何か合図を出したのだろう。男達が二人を取り囲む。

「この状態じゃ拳銃を使えないな」

 皮肉げに言う鷹乃宮。しかし内籐は余裕綽々である。


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