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勿論、見張っている彼らとしては、おとりとわかっていても何かしらのリアクションをしなければいけない。彼らは重い腰を持ち上げ、背後から足早に二人組へ近付く。

 その時、相棒の胸元で携帯電話がなった。静かな夜だ、着信音は当然二人組にも聞こえただろう。相棒が舌打ちしながら携帯を取り出すのと、二人組が走りだすのはほぼ同時だった。

「なんだ」

 不機嫌な声音で言う相棒を後ろにして、彼は走った。逃がすわけにはいかない。

「裏口からか? ああ、そっちが本命だろう。任せる」

 相棒が電話を切るとまたすぐに電話がなる。

「はい、後藤です。はい、はい、分かりました。では」

「許可は下りましたか」

 走りながらなので彼の声はしわがれていた。

「ああ、かたをつけるぞ」

 相棒は黒いスーツの胸元から銀色の拳銃を取り出す。安全装置をはずし銃口を地面に向けた。破裂音が夜を駆け抜ける。

「止まれ! 次は当てるぞ!」

 二人組はスイッチを切られたかのようにピタリと止まった。明らかに不自然な挙動に、相棒が眉をしかめた。彼も相棒もプロだ。罠には鼻が聞く。

 彼も拳銃を抜いて注意深く二人組へ近付く。二人組は微動だにしない。やはり何かおかしい。

 彼は相棒と目配せする。相棒は二人組の横へ回る。油断なく拳銃を構える相棒を確認して、彼は黒いコートを着た人物へ手を伸ばした。

 

病院の裏口は閑散としていた。

 表とは違い、微妙に清掃が行き届いておらず、空き缶やタバコの吸殻などが所々に落ちている。

「止まれ」

 暗がりに佇む影、影、影。

 黒スーツに身を包み、どこからどう見ても堅気ではない人間達に黒いウインドブレカーを羽織、頭からフードをすっぽり被った二人組が対峙していた。止まれと言った黒スーツの中年男が退屈そうに胸元から何かを取り出した。

「警視庁公安課、内藤だ」

「知らん」

 二人組みの片方が即座に決別を宣言した。これには内藤も毒気を抜かれたのか、苦笑いめいた表情を見せる。


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