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「まあ、そうだけど」
レイジが肯定すると、アイは目を潤ませながら微笑みをこぼした。
「わたし、怖かったんですよ? もう会えないんじゃないかと不安で、すごく不安で。なのに『やあ』だけですか? 他に言うことはないんですか?」
「そうだな。取り敢えず苦しいから、もう少し力ゆるめてくれないかな」
アイはすがりつくように、レイジの胸に顔を埋めて力いっぱい抱きしめていた。
「だいたい、レイジさんは何時も言葉が足りません。わたしを不安にばかりさせます」
「いや、うん、悪かったよ。だから、その、もう少し手加減してくれない? 息が苦しくて」
「わたし、ちょっと怒ってます」
アイに見つめられてレイジはたじろいだ。アイの潤んだ瞳の奥に、妙に鋭い光が見えたような。
「いっそのこと、このまま絞め殺してしまいたいです」
にっこり微笑み、アイは腕に力をこめた。
「うっ、ちょっ、アイ、くっくるしい……」
「わたしは何時も愛くるしいです」
「いや、ちが……うっ」
レイジはみるみる顔を青ざめさせた。
「それ以上は窒息するぞ」
救いの手を差し伸べたのは成り行きを見守っていた如月である。秋庭と鷹乃宮は同時に舌打ちした。
「君らは友人を殺すつもりか?」
抑揚のない声で如月は二人をたしなめたが、秋庭はそっぽを向き、鷹乃宮は何の事ですか? と言わんばかりに笑顔を振りまいている。
「我が弟子ながら、恐ろしいな君らは」
如月に指摘され、アイはしぶしぶとレイジから腕を離した。が、頭はレイジの胸に埋めたままだ。
「それで、鷹乃宮君。僕に協力して欲しいなら事情を説明して貰おうか」
鷹乃宮は一つ頷く。
「説明はします。けど、その前に秋葉原」
「その呼び名はアイだけで十分だぞ」
嫌そうな秋庭の抗議は平然とスルーされた。
「冬馬あいさんを呼んでくれないかな」
「俺がこれから何をするのか、分からないとでも考えているのか?」
秋庭は口調を変えた。珍しく厳しい口調である。




