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「やる気もないくせに、わたしをやる気にさせる。ほんと、犯してやりたくなる」
鷹乃宮の手が首筋に下がる。さわさわと撫で回され、くすぐったさのあまり首筋を反らしてしまう。
鷹乃宮は猫みたいに笑った。しかし、その笑みはすぐに不機嫌な苦笑いに変わった。
「やる気がないなら可愛い反応をするな」
言いながら頭を俺の胸にのせ、鷹乃宮はふうっと息を吹き出した。
「まあ言いさ、そろそろ策でも聞かせて」
「策を聞く体勢なのか?」
俺としては、せめて身体を起こしてほしい。
「黙らないと犯すぞ」
「さようで」
呆れ半分に吐息を吐き出す。抵抗するだけ無駄のようだ。ならばさっさと話すにかぎる。
「アイを別の世界へ送ろうと思う」
鷹乃宮の手がぴくっと震え、俺の胸ぐらを掴んだ。
「私のアイちゃんを?」
「節操が無さ過ぎるぞ」
「ほっとけ」
ほっとこう。
「さっき夢をみて気付いたんだが、おそらくアイの身体はカレイドスコープにある」
「ちょっとまて、あんたはあちら側にあるのは情報だけだと言ってたでしょう」
確かに、カレイドスコープに唯物論が適用されるとは思えない。俺の予測では、物質が誕生する前の状態であると思う。が、何事にも例外が付き物なのだ。
「夢の中でアイに会った。アイはこちら側にいるのにだ。多分、あれはアイの身体だ。精神がこちら側にある以上、そう考えるしかない」
「あなたを信用しないわけじゃないけど」
鷹乃宮は疑わしそうに頭を俺の胸にすり付けた。
「あなたが見た夢が、本当の夢でない保証が何処にあるの」
「ない。取り敢えずそう仮定して策を立てた」
「ふん。まあいいさ。でっ?」
「まず病院から脱出する。奴らは見張っているだろうから、もちろんおとりを使ってね。それから学校に戻り、量子コンピュータを使ってアイをカレイドスコープに戻す。ただ戻すだけじゃなく、適度に勢いをつけて。カレイドスコープへ加速度を持って移動したアイは、身体に戻るだろう。けどそこで加速度はゼロにならないようにしておく。このあたりの調整は」




