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「聞いてもいい?」

「何を?」

 鷹乃宮はどこか悲しそうに口を開く。

「あなたにとって、アイは私よりも大切なの?」

 真剣な眼差しでなければ冗談だと思っただろう。

「気が多いな。君は。秋庭が聞いたら卒倒するぞ」

「あいつは、私が他の奴とねたって、別に怒らない。私がそういう人間だって分かってるから」

 鷹乃宮は上半身をさっと持ち上げ髪を片手でかきあげる。俺の身体をまたいでお腹より少し下の部分へ腰を落とす。

「正直、私は世界が窮屈でしかたない。どうして一人しか好きになってはいけない? どうして一人しか愛してはいけない? 私はあいつもあなたも好きだ。自分の気持ちに嘘をつきたくない」

 病室には他の患者はいないのかといぶかしむ。ベッドの両側はカーテンで仕切られているので確認出来なかった。鷹乃宮がここまで言うのだから、多分誰もいないのだろう。

「大きくなってるね」

「生理現象だからな」

 鷹乃宮ほどの美人を前にして反応しないのは無茶である。

「やるか?」

 切なげな瞳で見下ろされて心臓が高鳴った。流れ落ちる優雅な黒髪。しっとりした質感を想像させるなめらかな肌。その質感を想像でなく、直接手で味わいたい衝動にかられる。

 まあ、実際には指一本さえ動かせないが。

「やらない。アイはどうしてる」

「今はアイちゃんの話しをしないで」

 俺の顔に鷹乃宮は顔を近づけ、唇が触れそうな距離でしゃべる。

「答え、聞かせろ。アイと私、どっちが大切?」

「矛盾しているな」

 自分は俺と秋庭が好きだと断言しているのに、俺にはアイと自分のどちらが大切かと問う。それは明らかに矛盾した行為だ。

「だからどうした」

「君は……いや、君らしい答えだ」

 ふっと笑う。すると鷹乃宮はけっと鼻で笑った。

「あんたのその顔を見ていると、胸がざわめく。あんたはずるい」

 鷹乃宮の手が俺の頬に触れた。繊細な指でヒヤリと頬をなでる。


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