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『探しました。樹海も、廃墟も、海岸も、他の全ても、無限に広がる此処の全部を。でも、あの人はいませんでした』
じゃあその人は多分、死んだのだ。
いや、違うのか?
「どうして君は、その人が何処かにいったと思うんだ?」
『あの人は外から来ました。だからきっと外に帰ってしまったのです』
心なし、少女の泣き声が大きくなる。
聞こえてくる声は泣き声に構わず、独り言のようにつづける。
『わたしは、また一人になってしまいました。誰もわたしを『……』してくれないのなら、わたしという存在に意味があるのでしょうか』
また、答えを求めない問いかけだ。
『わたしを『……』してくれる人はいるのでしょうか。此処では見る事しか出来ない『……』を、わたしは触れて感じたい』
こだまする声を聞いて俺はやっと気付いた。
これは何時もの夢なのだと。
しかし、この泣きじゃくる少女は既に此処にはいないはずだ。だとすればこれは。
「過去の記憶なのか? なら君は」
『わたしはぬくもりが欲しい。ただ憧れるだけでなく。この手で、この身体で、『……』を感じたい』
声が少しずつうわずっていく。微妙に音程の外れた声音が俺の心を締め付けた。
『誰かわたしを『……』してくれませんか? ああ、違う。わたしは、わたしは、あの人に『……』されたい』
「お目覚め?」
急激な覚醒は混乱をまねいた。目の前がチカチカして自分の正体を見失う。
しばらく頭の中で虫が這うような不快感に耐えると記憶がよみがえり、自分が置かれた状況を理解しはじめる。
そして、どうしても理解出来なかったので率直に聞いた。
「鷹乃宮、なんで仁王立ちなんだ」
俺はどうやら病院のベッドで寝かされているらしいのだが、どうゆうわけか鷹乃宮がベッドのとなりで仁王立ちしている。
「怒っているからよ」
鷹乃宮はにっこり微笑む。
「さようで」




