表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
40/74

40

体勢が悪く、あまり威力はなかったが、男の手が緩みアイが僕に倒れこんできた。

 しっかり抱き止め、後ろ手でドアを探る。

「くっ、この!」

 事態を飲みこんだらしい男がアイに手を伸ばした。

「触れるな!」

 ドアはまだ開かない。不器用に鍵を外しながら、男を蹴り付ける。

「このっ、無駄だ! アヴァロンは接収する!」

 やはり、勘違いしていたか。くそっ、アイがアヴァロンでないと言っても無駄だろう。考えあぐねている間に、男の手がアイの腕を掴む。

 ほっそりしたアイの腕の掴まれた部分が赤く変色する。

「だから……」

 身体中をざわざわと虫がはい上がるような嫌悪感。嫌悪感の出所を自覚しないまま、僕はもう片方の足を突き出していた。

「気やすく触れんじゃねぇ!」 

 蹴りが見事に男の腹にめり込み、アイから手が離れる。苦しそうに喘ぐ男を睨み付け、鍵を開け、ドアを開く。

「ただではすまさんぞ!」

 男の負け惜しみに構う余裕はない。アイをしっかり抱きしめる。状況に不釣り合いな青空が視界を覆い隠した。そして次の瞬間、衝撃が身体を突き抜けていく。

 関節が上げる悲鳴を無視して無理矢理転がって勢いを殺す。青い空と茶色い大地を交互に見て、何回転もした後にやっと視界が固定された。軋む頭と吐き気に耐えながら、注意深くアイから腕を離す。

 痺れた腕はなかなかアイから剥がれなかった。いや、案外僕がアイを離したくないだけなのかもしれない。

 地面に座し、アイの上半身を支える。アイの目は固く閉じられていた。制服のあちこちに切り裂かれた跡。いくつか制服を貫通したらしく、血が滲んでいた。

 心なし冷たいアイの身体に不安のとばりが降りてくる。

「アイ……アイ!」

 僕は叫んでいた。涙すら流して叫んだ。頭の芯が痺れる。

 吐き気すら伴う喪失感が身体の中をはい回った。

「アイ! どうしてだ、なあ、アイ」

 くそくそくそ!

 落ちつけ!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ