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「ヘンタイさんは将来どうするんですか?」

「へ?」

 すでに視線を反らせたアイは俺の疑問符を黙殺した。ただ、夕色の銀髪を風に遊ばせている。

「さあね。考えたこともなかった」

 川原学園は小中高大と一貫したエスカレーター式の学校である。普通、高校二年くらいでほぼ進路をきめねばならないが、川原学園では三年次にどの学部にいくか問われるくらいだ。川原学園からでる意志がある学生は自己申告するのが決まりとなっている。

 だから僕は自分の将来など夢にもみない。

「学者さんにはならないんですか?」

 順当にいけはなるだろう。けど。

「どうかな」

 分からなかった。自分の未来なんて。真剣に考えたこともなかった。まだ遠い未来なんて。

「時間は体感している時より、過ぎ去ったあとで短く感じます」

 アイは物憂げに謳うようにいう。

「だから今を精一杯生きるべきです。未来を信じて」

 夕日がまぶしいのか、アイは目を細めた。

「そして未来で過去にあんなことがあったんだと笑える。わたしは、そんな将来が欲しいです」

 想像してみた。様々な未来を一瞬で想像したけれど、どの未来でも傍らで笑うアイの姿があった。

 そして気付いた。アイが笑っていてくれるなら、僕はどんな未来でも構わないと。

 夕が没する地平線を眺め、やがてくる夜を思う。

 連網と続く繋がりの中で、俺とアイがであったような奇跡は幾つもおこったのだろう。そしてこれからもおこるだろうと俺は確信する。無論、当然、その奇跡は沢山の屍の上に築かれるのだろうが。

 こんな日常をおくりながら、アイの社会順応は、周囲の好奇にさらされつつ、順調に進む。

そう、あの日までは。

 その日、俺は量子コンピュータに関する授業を受けていた。内容は俺が構築した理論の説明で、退屈極まりない授業である。

 緩い暖房も手伝って、俺はうつらうつらと眠りかけた。しかし、胸元のポケットで携帯電話が暴れだし、眠気を僅かに押し返した。


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