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「格好良いだろ」
秋庭は自慢げに言ったが、正直不気味である。
「ただの趣味ね。それもオタクな」
鷹乃宮は冷厳にきって捨てた。秋庭は何やらとてつもなく落ち込んでいるようだが、僕も鷹乃宮も無視した。ディスプレイに文字が明滅している。
『プログラム実行完了』
人形に変化は見られなかった。瞳に走っていた文字は消えている。瞳を開いたまま微動だにしない。鷹乃宮と目を合わせて頷き合う。
僕は人形に近寄って、だらしなく垂れ下がった腕をとり、手を握る。反応はない。顔に手を当てて瞳を覗きこむ。
「あ、危ない」
鷹乃宮の忠告は明らかに遅すぎた。頬に鈍い痛み。あっけにとられて人形を見る。
人形は平手打ちをかました自身の手を不思議そうに眺めていた。
「君、私の言葉が分かるかな?」
鷹乃宮が普段とは別人の優しい声音で聞く。人形は手のひらを裏返したり、指をわきわき動かしたりしていたが、訝しげに視線を鷹乃宮に移した。もたもたと口を開き。
「この……ひ……へ」
音の連なりを発音したが、言葉になっていない。
「まだ、慣れていないんだろ。君、あ、と言ってみて」
いつの間に復活したのか、秋庭が目を子供みたいに輝かせている。
「……あ……」
「次は、い、だ」
「…い」
「よし。連続で言ってみて」
「あい」
秋庭は満足そうに何度もうなずいた。
「よしよし。それじゃ、さっき言おうとした事を言って見ようか」
人形は視線を僕に定めて妙に力を込めて言った。
「この……人…変態です」
微妙な沈黙が場を満たす。
「いきなり……キスを……しようと……しました」
たどたどしい口調ながら、はっきり発音する彼女には妙な説得力があった。
「お前、そんなつもりだったのか」
驚愕して眼を見開く秋庭。




