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「まっ、やれる事はやれるし、妊娠も出来るし、実在の人物がモデルだし、倫理的問題は山積みだけどな」

 朗らかにいう事かよ。

 さて、肝心の中身についてだが、さすがに脳まで生体で作るわけにはいかず、鷹乃宮が量子コンピュータで疑似脳を作った。

 この疑似脳は本来、人工知能プログラムを走らせてバグをチェックするものらしいのだが、鷹乃宮が独自の改良を施し人間の脳並みに性能を高めた。つくづくすえ恐ろしい連中である。

 もっとも、召喚師さながらに、異界から何かを呼びだそうとしている僕は二人から見れば怪物だろう。これで準備は整い、あとは仕上げをごろうじるだけ。

 少しばかり都合よく書いた関係書類を提出して学校からもお墨付きをもらい、第四実験室の使用許可をとる。

 第四実験室は量子コンピュータのプロトタイプが安置されている。そう、文字通り安置だ。プロトタイプ量子コンピュータは理論上無限の処理能力をもつ。

 勿論、時間的拘束を無視すればだ。それでもとてつもない処理能力を有する。しかしこのコンピュータには決定的な欠陥があった。無限の処理能力を発揮するために、無限の電力を消費するのだ。

 その事を失念してコンピュータを稼働させた結果。学校内の電気が全て途絶えた。

 安全装置が働いて外にまで影響が出なかったのは不幸中の幸いである。今回は処理能力を制限して動かすので問題ないはずだ。

 秋庭が用意した身体と量子コンピュータを繋ぐ。耳の後ろから太いケーブルをたらした姿は奇妙な違和感があった。彼女を呼び出すプログラムをインストール。さらに円錐型の透明な容器にプラグを差し込む。これは内部空間を歪曲する装置だ。歪曲率はごくわずかでもカレイドスコープに繋ぐには十分だろう。ようは歪め方だ。

 ディスプレイに文字が浮かぶ。

『新しいプログラムを実行しますか? Y/N』

 僕は迷わずYキーを押した。


 これが、始まりと終わりであることを知らずに。


 量子コンピュータが稼働する。冷却ファンがフル回転してすえた匂いが実験室をみたした。

 すっと、人形が目を開く。くすんだ黒い瞳に蒼白い文字が走る。


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