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人形は服を全て床に脱ぎすて、片腕で胸を隠し、恥ずかしそうにこう言った。
『初めてだから……痛くしないで……』
いらない。
「観念しなさい、半殺しですますから」
「うおお! まてまてまてぇい! お前の半殺しはヤバイ! いくら俺でも次は死ぬ! 頼む君、何でもするから助けてくれ!」
何でもと言われても困る。僕が今必要としているのは量子論に詳しいパートナーなのだ。はっきりいっていかがわしい人形を作る変態と関わっている時間など無い。
「量子論なら分かるぞ! 専門は生体工学だが、量子論も出来る! その人形も改良型量子コンピュータで動かしている! だから助けてくれ!」
改めて人形に目をやると、座り込み、膝を立て、妙に艶めかしい声で鳴いている。まあ、偏見と良心を無視すれば、人形に組み込まれたプログラムはかなりのものである。人形自体も知らなければ小人にしか見えない。なかなか使える人材なのかもしれない。
ものは試しに助けてみよう。
「ねえ君、許してあげてくれないかな?」
「やだ」
「ごめん、無理だった」
「あきらめが早すぎるぞ!」
そんな半泣きでいわれても困る。
「うーん、じゃあさ取引しよう」
「取引?」
若干胡散臭げながらも多少は興味を持ってくれたらしい。
「君ら特待生だよね? 許してくれたら研究費用を融通してもいいよ」
川原学園において優遇処置を受けているのは俺だけではない。恐らくこの二人もそうだ。ならば研究費用はあり過ぎて困ることはないだろう。
「悪い話ではないな」
彼女は少し思案してからうっすらと笑う。
「いいだろう、取引成立だ」
差し出された手を握り返す。
「ありがとう! 助かった。この恩は墓場まで持っていくぞ!」
「持っていくな!」
如才なく女が突っ込む。まあ、とにかく名前ぐらいは聞いておこう。
「俺は秋庭だ。さっきも言ったとおり、生体工学が専門。で、こっちのはすっぱな奴が鷹乃宮だ。専門は心理学だったけ?」




