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 優しく突き放すようにアイが言う。

「そうだ」

 アイの胸から顔を上げ、瞳を交じり合わせる。

「俺は逃げた。だから研究は停滞した」

 だが、何処かで研究が続けられているらしい。あくまでも、秋庭から聞かされた噂話しであるが。

「君の事を学校で調べてみた。退学扱いになっていたけれど、君の外見は冬馬あいと同じだ」

 もし、誰かが俺の研究を引き継いでいるのなら、鷹乃宮はかっこうの被験体である。

「少し調べたら、冬馬あいは事故で植物状態になっている。今は凍結保存されていた。けど俺の研究を利用すれば人格を入れ替える事で動けるようにできる」

 それなら、アイのケガも説明出来る。

 俺の研究は今や禁忌だ。もし被験体が逃げ出したらどうするのか自明である。

「そうですか。こちら側の鷹乃宮さんと冬馬さんはそんな風になっていたのですか」

「こちら側?」

 意味深な言葉に戸惑う俺をよそに、物思いにふける様子のアイ。

「わたしは鷹乃宮さんではありません」

 優しく微笑みながらアイが言う。

「だから、わたしだけを見て、わたしを抱いて下さい」

 夜特有の静けさが場を満たした。アイの柔らかな肌、柔らかな髪。

 すべてを自分のモノにしたい衝動に駆られる。

 けれど。

「らしくないか」

 そう、このシュチエーションでやるのは自分らしくない。

「レイジさん?」

 アイが拍子ぬけしたみたいに名前を呼んだ。戸惑うアイも中々可愛い。俺はアイをそっと抱き寄せた。

「あっ」 

 そっと、頭を撫でる。柔らかい髪が少しばかり俺の心を和ませる。

「まっ、今日はこんな所で」

 アイは子猫のように俺の胸に頭をすりつける。

「やっぱり、レイジさんはずるい人です」

 言いつつもアイもまんざらでもないらしい。おとなしく頭を撫でられている。月光が奏でる曲を聞きながら過ごす夜も。

 たとえ。


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