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「レイジさん?」

 寝ぼけているのだろう微妙に視線が定まっていなかった。その無防備さが、俺に罪悪感を抱かせる。

「ごめん」

 苦笑いめいた後悔がわきあがる。まったく、寝込みを襲うなんて俺も堕ちたものだ。無理な体勢で寝ていたつけでやたら軋む体を叱咤して立ち上がろうと力を込める。しかし立てなかった。アイが掴んでいた腕に力を込めたのだ。

「やめないで下さい」

 濡れた瞳、震える睫毛、月光に彩られたシルエット。そして弱々しく俺の腕を掴む手。

「なにを?」

 分かっていながら、聞かずにはいられない。

 聞き返さなかったら、流されてしまうから。けれど、無駄な抵抗だった。油断していたのか、俺もその結果を期待していたのか。不必要に近づいてきたアイの顔を止められなかった。アイの唇は、柔くなかったし暖かくもなかった。

 けれど。

 もう。

 止まる理由がない。

 重ねられた唇を離して、今度は首筋に唇を落とす。

「んっ」

 アイは喘ぎながら、びくりと震える。落とした唇をそのまま胸元まで滑らせて軽く舐めた。広く胸元の開いたキャミソール。月光を浴びて蒼くなった肩にも唇を落とす。脇に触れるか触れないかくらいの所を舌で優しくなぞる。 

 アイは硬く瞼を閉じた。

「本当にいいの? あいつのことは?」余計な言葉だが聞かずにはいられない。

「え?」

 戸惑いながら目を開くアイ。視線と視線が絡み合う。

「レイジさんは、誰を抱くつもりなんですか?」

 優しい声に含まれるニュアンスは詰問だった。しばし、アイと見つめ合う。濡れた瞳に宿る光りが俺の心に突き刺さり痛みを与えた。違うのだろうか。アイの正体は彼女ではないのだろうか? 

「君は」

 もたつく唇を理性で制して言葉を紡ぐ。

「君は、鷹乃宮藍なのか?」


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