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「アイちゃんはレイジが好き?」
明太タラコマヨネーズトロピカルダイナマイトフィットチーネを器用に箸で食べながら奈瑞菜が聞いた。
客入りのまばらなフレンチレストラン。座席数だけは有り余っていたので奈瑞菜とアイのまわりに他の客はいない。レイジは先に帰ったのでふたりっきりである。
アイは少しばかり頬を紅に染めた。
「好きかどうかは分かりません。ただ、引かれてしまうんです」
奈瑞菜が軽くため息をつく。
「優しいからね。あいつ」
すっと、眼を細める奈瑞菜。普段は見せない、気だるげな雰囲気が奈瑞菜を取り巻く。
明るく、おちゃらけた奈瑞菜は演技でしかないのだと見る者を不安にさせる表情である。
「でも、あいつは優しすぎる」
アイはいぶかしげに奈瑞菜を見た。
「抱いて欲しい時には必ず抱いてくれる。冗談で言っても嫌がるくせに、生意気だと思わない?」
どこか陰りのある奈瑞菜の視線がアイの視線と交わる。
「年上を慰めるのよ。ガキのくせに」
だんだん声が熱っぽくなってくるのに、奈瑞菜の眼は悲しげである。アイは不安を覚えたが、奈瑞菜の言葉を遮ろうとは思わなかった。なんとなく、聞いておかねばならない気がしたから。
「してほしいことをなんでもしてくれる、でもねたまに思うの」
奈瑞菜は瞼から、一滴の水滴を流した。
「あいつは気持ちいいのかなって。気持ちいいのはあたしだけで、あいつは何も感じてないんじゃないかって」
「そんな事はないと思います」
店員が軽くお辞儀して皿を下げた。ちらりと奈瑞菜を見たが表情を動かさなかった。
「レイジさんは奈瑞菜さんの事を悪くは思っていません。レイジさんは嫌いな人とはしません。あの人はただ、大切な人をどうやって励ませばいいのかわからないだけだと思います」
驚いたように奈瑞菜が目を見開いた。
「昨日会ったばかりなのに、あいつの事をよく知っているみたいだね」
アイは目を伏せた。
「まっ、詳しく聞くつもりはないけど」
奈瑞菜は片手を上げて店員を呼び、ストロベリーダイナマイトパフェを注文した。




