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 ないのだが。

「おう。レイじゃないか。久しいな」

 背後からかけられた声に振り向くと、見知った顔が見下ろしていた。

「秋葉原か」

「秋庭だ! てめえ、喧嘩売ってんのか」

 秋庭は、胡散臭げな視線を奈瑞菜さんとアイに一回ずつ突き刺した。

「しかしまあ」

 そして切れ長の目をいやらしく細めた。

「いきなり休学したから、心配してたがまさか美人二人とねんごろだとはな」

「いやまて、どこをみたら……」

 ふと、自身の状況をかえりみる。奈瑞菜さんは俺の胸の中。アイはアイでなにやらもじもじしている。

 誰がどうみても女をはべらせているようにしか見えないだろう。

「秋葉原、学校はどうした?」

「秋庭だ! たく、お前は」

 もともとたいして整えていない髪をかしかしとかき乱し、秋庭はふんっと鼻息をもらした。

「今日は休校だ。去年のあの事件、今日だっただろ」

 正直、忘れていたかった。俺が学校に退学届けを出すきっかけになったあの事件。

 実際には、俺に責任がある分けではなかったので退学届けは受理されず休学扱いになっている。

「覚えてたみたいだな。あれは事故だ。気にするな。それに彼女だって」

 秋庭はついっと天井を見上げた。つられて俺も天井を見上げる。

「お前の情けない姿を、みたくない筈だ」

 天井近くを泳いでいたイルカの一頭が、こちらを見下ろした気がした。もしかしたら、そこに彼女がいたのかもしれない。

「なあ、レイ」

 秋庭はなぜか声をひそめて顔を近づけてくる。

「あの女の子、誰だ?」

「なんだ? くどくつもりか?」

 怒り出すかと思いきや秋庭は神妙な面持ちで首を横に振る。

「いや本人ではないだろうが、知り合いに似ていてな」

 他人のそら似など珍しくもない。だから驚きはしないけれどアイがどこの誰なのか知る手がかりがない以上、ほんの少しの可能性でもあったってみるのはそう悪い選択肢とは言えないだろう。


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