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第四章 真・学校生活



 私は、生きるのがつらかった。その最大の理由は、理解者が母親しかいなかったからだと、思う。


 例えば、私の髪が黒ければ。

 少なくとも、ババアなんて酷いあだ名なんてつかなかっただろう。

 例えば、私の目が赤くなければ。

 少なくとも、ウサギなんて酷いあだ名なんてつかなかっただろう。

 例えば、私の白い肌が、人のそれに近ければ。

 少なくとも、蝋人形なんて酷いあだ名なんてつかなかっただろう。


 ――――例えば、私に友達が一人でもできれば。


 ――――少なくとも、これほどまでに引越しを繰り返すことはなかっただろう。


 生きるのが、辛かった。




 うちのクラスには、『日本一の学生』がいる。

 容姿端麗、文武両道でクラスの女子の視線どころか、学校中の女子の視線と関心を集めている男。


 東条 陣。


 いけ好かないが、男子から見ても性格よし、格好良いのは確かで、喧嘩も運動もできる、しかも女子の目があって乱暴もろくにできないと、手に負えない奴だった。そんなやつなので男友達は打算的な奴だけで、親友と呼ばれる者はいない。

 とにかく、異性にもてる。男子にはいい印象を持たれていないようだが、本人はそれでいいようで、いつも取り巻きの女の子と節操なく楽しんでいる。

 とはいえ、男子で孤立しているわけではない。お目こぼしでももらおうと、彼の周りには軟派な男子が集まるので、男子からはぶられているわけではないのだ。

ただ、それが面白くないと感じている奴もいる。

 入学してからずっと煮え湯を飲まされた同じクラスの男子は、そのはけ口に、ヒエラルキーの最下層に近い男に、目を付けた。


 堤森 弘毅。ひょろっと長く、ひ弱なメガネ野郎だった。


 クラスのうっ憤は、すべてそいつに向かっていった。まぁ、おそらく、東条がいなくても向かっていただろう。初めの時は文句を言っていたが、ぶつぶつ言っていれば殴っていたので、仕舞いには何も言わなくなっていた。

 自殺するかも、と思われたが、死ぬ勇気もない。一度ふざけてナイフを持たせたが、それも捨てるほどの気弱な奴だ。

「やだもう~♪」

「「ははは」」

 クラス中の女子は、東条が入ってきたときに黄色い声援を上げ、バカのように集まりだしている。そして、教室中の男子の視線が、まだついていない男の席へと向いた。。

 まだか、まだか。

 すでにクラスの男子は席についており、動いているのは女子のみ。視界にも入れたくない、ということでクラスの一番端、本来なら人気の席であるごみ箱の前であり窓側の、隣に無人の机があるところが、堤森の席だった。

 早く来い。また、小突いてからかってやる―――――。

 クラス中の男子がそう思ったとき、最後の一人が教室の扉を開ける音がした。

 きた。

 そう思い、視線を向け―――――――動きが止まった。


「うぃ~っす」


 何の気負いもない、恐れもない口調で現れたのは、ひょろっと背が高く、髪の毛も伸ばしその奥から全てを呪い殺そうとにらみ続けていた『弘毅』


ではなく。


 短髪で体格もそれなりに良く、肌も程よく焼けた男子学生が立っており。


「いやぁ、暑い暑い」

 そういいながら若干けだるそうな様子で、そのまままっすぐ進み―――『堤森 弘毅』の席へと、座った。



『は?』



 どこから漏れたかわからないような声が、綺麗にシンクロしたのだった。




「………あっちぃ」

 茹だるような暑さに、朝方だというのにさすような太陽光。アスファルトが徐々に熱を持ち出す頃、夏休みが終わった学生が、ざわざわと騒がしく学校への登校路を歩いていた。

 その雑踏の中、夏休みなどを友達と話している中で、ひときわ浮いている存在がいた。

 半眼で暑さにうめきながら、歩く男子生徒。

 ワイシャツの一番上のボタンを外し、程よく焼けた肌が見える隙間からは、少しずつ盛り上がった筋肉が垣間見えている。わずかに体の節々から成長痛を感じるが、それでもしっかりと胸を張って歩く彼を見て、誰も「オタク」であった『弘毅』と結び付けられる者はいなかったであろう。

 コウキ自身も周りからわずかな視線を感じてはいたものの、自分でも変わりすぎだと思っていたので、気にはしなかった。

 街路樹に挟まれた登校路を進み、部活動の声を聴く。一気に音がこもる昇降口で靴を履きかえると、そのままゴム底とすれ合い、異様な音を出す廊下を歩いて、教室へと向かった。

 かすれた記憶の中でも、もっとも色濃く残る学生生活。懐かしさを感じる半面、違和感はどんどんと強くなっていった。


それは、自分の教室であろう場所に入っても、変わらなかった。


 二枚の黒板に挟まれるような教室には40の席と椅子が並べられ、教団から見て右奥――――窓側が、コウキの席だった。軽く挨拶を飛ばしながら椅子に向かって歩き、座ったところで気付いた。

 周りから、チラチラという視線を感じ、そちらに視線を向けると、すぐにそらされてしまう、ということが起きたのだ。

『弘毅』との記憶とすり合わせるため、一人一人を盗み見すると、視線が合う。それが何度も続いたところで、自嘲した。

(まぁ、ぶっちゃけすごい変化だからな。つっても、俺よりもすごいやつがいるみたいだけど………)

 一人、『堤森 弘毅』の『記憶』にまったくない生徒がいた。正確に言えば名前も顔もよくわからない同級生はいたのだが、それよりも記憶に薄い存在がいたのだ。

 東条 陣。背面にある黒板に張られた席順の紙で把握した名前だが、記憶には全くなかった。

 しかし、その後ろの黒板に張られた表彰状や新聞の切れ端には、ちらほらと彼の姿や写真が見て取れた。

 怪訝そうに考え込み、思わず小首をかしげていると、誰かが席の前に立っていた。

 コウキは、視線を少し上に向ける。

その先には、恰幅のいい短髪の同級生が立っていた。

 『弘毅』の記憶の中では、『弘毅』をいじめていた筆頭だ。力は強くて大きく、このクラスの番町のような相手だった。

(………そういや、『弘毅』はいじめられていたようだったけど、なんかしたのか? まぁ、原因がわからないとしても、担任や生徒指導の先生やらに相談すればいいのに)

 そこで、頭をふるう。よくよく考えれば、各学校で内情は違うのだから、ひとえに決めつけるものではない。

(それより名前は、っと――――『豚饅頭』?)

 コウキは思わず、キョトンとしてしまった。名前を思い出した時に出てきた言葉が、間違いなく悪口だったからだ。そして、どんなに頑張っても、名前を思い出せないのである。

 よくよく確認すると、同じような相手が何人かいた。おそらく、いじめてきた相手をそれほど深く憎んでいたのだろう。

(引き出せるのは、あくまで『弘毅』の記憶基準か………。ん? その割には塚原とやらはすっと出てきたな)

 そんな風に考え込んでいると、目の前の机が力強く叩かれた。その音に目を丸くしたコウキが視線を向けると、丸っこい顔を赤くしている『豚饅頭』の顔が映った。

「なに無視してやがんだ! おい「ヨワキ」! 焼きそばパン買ってこいよ!」

「――――「ヨワキ」?」

 『豚饅頭』の言葉を聞いて、コウキは一瞬考え、すぐに思い至る。「ヨワキ」というのは、コウキへの侮辱の言葉である、と。

 あぁ、とかわいそうな子を見る視線を向けるのは、仕方ないだろう。なんとなく以前の記憶にそんな相手がいたのを思い出して、同時に懐かしくなった。

 とはいえ、あまり放っておくのも何なので、財布の中から500円玉を取り出すと、『豚饅頭』に放った。

 キョトンとした顔を向ける『豚饅頭』に向かって、コウキは口を開いた。

「それで買ってこいよ。ああ、俺はメロンパンね。余った金で買っていいから」

 朗らかな笑顔を浮かべ、そういいながら500円玉を放る。それを受け取った『豚饅頭』は、一瞬だけ呆けたような表情を浮かべた。

 コウキの言葉に一瞬目を白黒させた『豚饅頭』へ、すさまじく同情した視線と侮蔑の色をにじませながら、笑う。それを見て、察した『豚饅頭』が、掌に握っていた500円玉を掌で叩きつけた。

「バカにしてんじゃねぇ!」

 大きく手を叩きつけるよりも早く、相手の脇に手を差し込むように上へと押し出す。

 腕の方向とは逆の、持ち上げられる身体。重いと自分でもわかっている者が、軽々と止められ、体の体勢を崩すほどに浮かんだことに、『豚饅頭』は目を見開いて驚いているようだった。

 実際は、腕を上げるところで、下げるよりも早く持ち上げただけで、それほど辛いものではない。自分は座っているので、相手の体勢も崩し辛い。

 急に力を抜いた『豚饅頭』へ、HRの始業のチャイムを聞きながら、告げた。

「ああ、お礼参りなら後でな」

 教室中の視線が、コウキへと集まっていた。




 塚原は半眼で、へっと鼻を鳴らす。

 クラスメイトが感じている感情は、すでに塚原が感じたことがあるものだ。驚いてざわついているのを聞くと、少しだけ気分がいい。

 先ほど、『豚饅頭』こと笹原 義信を軽くあしらったあの奇怪な生物は、素直にも勉強の道具をだし、夏休みの宿題をまとめているところだった。

 嫌われているのを自覚しやすいようにと、彼の前と右、斜め前の机は誰も座っていない、不思議な空間。その中心にいるのは、夏休み前とはまるで別人の、『堤森 弘毅』。

 それを横目で見ながら、思う。

(――――実際、あの人数の不良もあしらったし………本当に、別人みたい。つうか、別人だよね、あれ)

 一番その変化を感じているのは、間違いなく塚原だった。夏休みの間、毎日のように川辺を走っているコウキを見ているし、一回り大きくなって成長した本人も見ている。

 なにより、大人びているように見えた。先ほどのは挑発が混じっていたが、全体的に落ち着いているイメージがあったのだ。

 そんなことを考えている時だった。


 パンパンと、先生の手が叩かれる音がした。


「みなさんにお伝えしたいことがあります」

 そういい、教壇に視線を集めたのは、すらっとした体躯の男性担任、石田 博は、見るものに安心感を与える表情で微笑むと、口を開いた。

「さて、突然ですが、転校生がこのクラスにやってくることになりました。今から、彼女を呼ぶのですが―――――」

 不意に、先生の顔がゆがんだ。それは、本当にわずかであって、塚原が注意深く見ていたからわかる程度の変化だった。

 しばらくの逡巡の後、言葉を発した。

「彼女は、先天性の体質を持っています。皆さんももうすぐ大人です。分別のつけることができる人たちだと、私は信じていますよ」

 その言葉は、重い。先生は先生なりに言葉を選んでいる様子だったが、適当な言葉が思い浮かばなかったのだろうか、顔色は悪い。

 神妙な表情を浮かべたまま、先生は教室の外へ、声をかけた。

「では、白井 姫子さん、入ってきてください」



 ――――――その言葉の後に、教室に入ってきたのは、どう見ても人形に見えた。




 蝋のように白い、生気のない肌。白いナイロン糸のようなサラサラの髪の毛を深めのニット帽に画し、その肌と髪の毛から誇張するように浮かぶ、大きな赤と黒が混じった瞳。

 整っている顔立ちは人形のようで、彼女が立っている場所だけが異空間のように、世界から際立っていた。

 違和感。その言葉が、一番ふさわしいだろう。

 その彼女は鞄を足元におろすと、少しおどおどした様子で黒板のチョークを持つと、黒板に何かを書き込んでいた。

 やがて、白井 姫子と名前を書くと、体をこちらに向きなおして、声を上げた。

「あ、あの! し、白井 ひ、姫子です! ………よろしく、お願いします」

 一生懸命絞り出したが、やがて細くなっていく彼女の声。透き通るようなその声が響いた後、教室に訪れたのは戸惑いだった。

 ざわざわと騒がしい中、コウキは思い至る。


(アルビノ体質か………)


 主に、先天的にメラニン色素の少ない体質のことを、アルビノ体質と呼ぶことを、コウキは知っていた。世界中で存在が確認されている体質で、白蛇や突如現れる白毛の動物も、アルビノ体質である。

 最も顕著なのが、白い肌と色素のない髪の毛だろうか。瞳に色素が少ないので、血液の色である赤い目が多く、視力も比較的弱いのが特徴だ。

 先天性でも、途中で色素を生み出すことがあるといわれているが、彼女にはそれがなかったのだろう、とコウキは考えた。

 周りの反応を見て、胸中でつぶやく。

(まぁ、物珍しいことは、物珍しいよな。大変だなぁ………。白井さん、だったっけ?)

 コウキは、『以前の経験』からか、アルビノ体質に対して、一般的な見解を持っていた。一般的といっても、関わり合いにならなければ、滅多に知る機会などない。

 そのような考えに至り、思考する。

(っていうことは、俺は『アルビノ体質』のことを知っている、ってことか)

 そんなことを考えていた時だった。

「それでは、済みませんが白井さん。右端の席が空いてますので、とりあえずそこに座ってください」

 教室の中を見渡し、空いている場所―――クラスで最も人気のない席に、彼女を誘導しようとしていた先生の姿を見て――――。


「あ―――「いや、だめでしょ」―え?」


 転校生の言葉と、コウキの口から自然にこぼれた声が、重なった。教室の視線が集まったのは白井ではなく、コウキへ、だった。

 きょとんとした目でこちらを見ている先生へ、コウキは一瞬戸惑ったものの、答えた。

「あ~、その、なんすか? アルビノ体質っていうのは、光の調整が苦手なんで、できる限り日陰に近い場所じゃないとみえないんじゃないんすか?」

「おいおい! 適当なこと言ってんじゃねぇよ!」

 コウキの、バツの悪そうな言葉に、『豚饅頭』が非難の声を上げる。先ほどのことにまだこだわっているのか、と辟易しながらも、コウキは視線を前に戻す。

教室の中が騒がしくなり始めたところで、先生は白井へ向き直ると、尋ねた。

「………そうなんですか?」

 先生の言葉に、白井は戸惑った様子ながらも、答えた。

「えっと、………はい。私は、その、大丈夫ですが………ほとんどの人は、まぶしくて見えないそうです。私も、時と場合で」

 アルビノ体質の人は、網膜の色が薄いので光の調整が苦手である。白い紙の上に書いた黒い文字ですら読み取るのが難しい人がいるほどだ。健常者であれば、昼間の光景が常にハイビーム状態の車の前に立つ状況だといわれている。

 つまるところ、あまり後ろの席では彼女は黒板の文字が見えないのではないか、とコウキは進言したのだ。

 教室の中に、驚きのざわめきが起こる。その中で、先生が白井へ顔を向け直した。

「でも、あなたは大丈夫なんですか?」

 先生の言葉に、少しだけ呆けていた白井が、少しあわてた様子で答えた。

「あ、はい! 私、目には色素が残っているそうで、外でなければ………」

「――――そうですか。では、とりあえずは後ろの席に座ってください。近々、席替えをしますので」

 先生の言葉に小さくうなずくと、彼女は足元の鞄を拾うと、足早に後ろに向かって歩き出した。誰とも視線を合わせず、まっすぐコウキの横の席に来ると、コウキに軽く会釈をした後、ゆっくりと座った。

 その彼女へ、コウキは声をかけた。

「堤森 弘毅。よろしく、白井さん」

「あ―――――」

 コウキが声をかけた時、彼女は心底驚いたような顔をしていたが、やがて視線を逸らした後、おずおずと言葉を返してきた。

「そ、その、よろしくお願いします………」

 恥ずかしいのか、声をかけたのが失敗だったか、コウキがそんなことを考えていると、先生が授業の開始を告げ、教室に授業の独特な空気が流れだす。

 コウキは、ちらっと右を盗み見た。白井さんがあわてた様子で授業の準備をしているのを見て、その奥の女子に視線を向ける。

 どうやら、奥の女子は白井さんと話をするつもりはないらしい。その向こう側にいる女子とひそひそと話をしているようだ。

 少しだけ気になったコウキは、声を潜めて話しかけた。

「(あのさ、白井さん)」

「(あ、はい!)」

 潜めている割には大きな声で答える白井へ、怪訝な表情のまま尋ねた。

「(教科書とかは大丈夫?)」

 コウキの言葉に、白井は少し驚いていたが、すぐに頷く。その顔には少しだけ嬉しそうな色が見えた。

「(はい。大丈夫です。もう用意してありますから)」

「(そっか。ま、なんか困ったことあれば言ってくれよな)」

 そういい、コウキは自分も授業に集中するため、勉強の準備を始める。そのコウキを不思議そうな、少しだけ嬉しそうな目で見ている白井。

 こうして、彼女とコウキは出会ったのだった。




 生まれて初めてだった。

 普通の人として扱ってもらう、ということはしてもらえなかったけど、それでも、知っていてくれた人がいたのは、初めてだった。

 私の、体質。

 それを知っていて、すぐに心配してくれたのも、初めてだった。

 今までは皆、『アルビノ体質』というものを知らなくて、それは仕方ないことだと思っていた。

 でも、初めて、知っている人に会えた。そして、その人は、私にやさしい言葉をかけてくれた。

 今までの学校は、どこに行っても、見た目からか、怖い視線を向けてきた。興味、畏怖、軽蔑――――いろんな、視線を見てきた。

 でも、ここで初めて、やさしい視線を、感じた。

 ………堤森 弘毅、君。

 それが、彼の名前だった。


 彼は、クラスで嫌われていた。それは、次の休み時間で分かった。

 誰も、彼に話しかけない。誰も、彼を見ようとはしない。

 でも、私には話しかけてきてくれる。周りを囲まれて、怖くて、少ししか返せないけど、それでも、話しかけてくれる人は、いた。

 でも、彼は気にした様子もなかった。


「あいつには近づかない方がいいよ? 気持ち悪いし」


 そんな言葉を、聞いた。誰の事か―――それは、すぐに分かった。

 堤森君のことだ。なんで? と聞くと、彼女たちはこう答えた。

「あいつ、ずっといじめられてんの。何考えているか全然分かんないし。つうか、夏休み開けてからさらに気持ち悪くなった感じ?」

 気持ち悪い? 彼が?

 第一印象は、やさしそうな人だな、って思ったけど、違うみたい。

 ………でも、私には、気持ち悪いとは思えなかった。私が視線を向けると、困ったように軽く手を振るだけで、気にしていない、と言っているようだった。

 二時間目は体育で、一時間目の授業が終わった後、着替えて外に出たけど、私は薄い長袖と黒いストッキングをはいて、皆の注目を浴びた。

 仕方ない、と思う。直射日光を浴びると、すぐに皮膚が焼けてしまうから。

 皆から少し離れたところから、男子の授業が見える。短距離走をしているようで、遠くからホイッスルの音が、聞こえてきた。

(いいなぁ………。私も、走りたい)

 病弱ではないけど、体質で肌が弱いせいか、あまり参加できない自分が、嫌だった。


――――――ピ。


 ざわめきが、起こった。ふと視線を向けると、ゴールラインには堤森君がいて。



 その姿が、とてもまぶしかった。





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