【第伍話】 三角関係!?
「ゴルゴンゾーラって知ってる? あれって戦いの名前みたいじゃない?」
「…………はぁ!?」
「ほら――、
『俺、ゴルゴン』
『俺、ゾーラ』
『『いざ、じんじょうに、勝負ッ!』』
――ね?」
「いや、わけ分からんから……」
俺は今、津山 美咲から一方的な言葉の波動攻撃を浴びせられていた。
「てゆーか、今部活中やねん。邪魔やから出ていけや――」
俺は津山を無理にでも津山を部室から追い出そうとした。
「ええ~いけずぅ」
この期に及んでも、津山はふざけた声を出す。
「先輩、気を遣わなくてもいいですよ~」
「そうですよ~追い出すなんて、かわいそうですよ~」
後輩たちが声をあげた。面白がっているのが丸分かりである。――ぶっ飛ばしてやろうかと思う。てか、こいつらが男だったら、間違いなくすぐ手が出ていたはずだ。
「ああー分かったよ」
俺は腕を下ろした。津山はニカッとした笑顔をこちらに向ける。
「そーそー、そういえばさー。昨日の『それゆけ! 海苔男』観た?」
「観てへんわ。そんな子供が観るアニメ」
「――面白いのに」
津山はぼやくように云う。『それゆけ! 海苔男」というのは、日本人なら誰でも知っているであろう超有名幼児向けアニメである。食材の住む国のヒーロー・海苔男が、湿気マンの脅威から住民を守るという内容のアニメだ。因みに、大概お話の最後に湿気マンは、海苔男の必殺技“海苔パンチ”を喰らわされ、偏西風に乗って国を去っていく。
まあ、そんな話はどうでもいいんだよ――。
俺はうんざりした気分になりながら云った。
「てゆーか、ここおってもええけど、練習はさせてくれ。俺ら今、大事な時期やねん。コンクールの日が近いんやから」
「……コンクール」
「せや」
そうなのである。俺ら合唱部の面々は、数日後にコンクールの出場を控えており、しっかり練習しなくてはならないのだ。
「――分かった」
津山はそう云った。何だ、やけに聞き分けがいいな――。
「竹原くんは、そのコンクールで何かやらかすつもりなんだね。そのための作戦を練っているんだね!?」
「はっ、違ッ……」
「じゃあ、邪魔しちゃ悪いよね。分かった。私今日は帰る。コンクールの日は、竹原くんの活躍を最前列で観てるから。そして、竹原くんの雄姿を、『ブラボーッ!』って叫んでたたえてあげるから! それじゃあ!」
シュタッと手をあげ、颯爽と部室を後にする津山。
「お、おい、ちょっと待てや!」
慌てて俺はその後を追う。そして部室を出た時、たまたま通りかかった上月 佐代に出くわした。
「あ、美咲……と竹原くん――?」
上月は呆気にとられたふうでその場で立ち止まった。
「おーぅ、佐代」
と、津山は声をあげる。
「おい、上月、こいつどないかしてくれよ……」
と俺が云いかけた時、
「ご、ごめんね、私邪魔する気はないから――!」
上月は叫んで、その場から走り去っていった。
「ちょっと待ってー! 竹原くんの雄姿、佐代も一緒に観に行こーよー!」
と、津山は上月の後を追いかけていった。
「何やったんや……」
呆然となる俺に、部長の川元が後ろから声をかけた。
「いいよなぁ。お前、モテて」
「はぁ!?」
いや、それ完全に勘違いだから。
てか、勘違いじゃなかったとしても、全然嬉しくねぇ……。