※追記 *コーリウスの決意*
かなりの時間をかけて、探ったにもかかわらず、王子の気配はどこにも見つけることができませんでした。
「何故でしょう。私の力をもってしてもわからないとは」
コーリウスは自分の能力に絶対の自信を持っています。この世界に、自分の魔術が及ばないところがあるとは思えないのですが。
微かでもいい、その気配さえつかめれば。そう思い何度も試したのですが、どれも無駄でした。
「神隠しにでもあったような気分です」
戸惑うような表情を浮かべると、コーリウスは椅子から立ち上がり、窓へと近づきました。カーテンの隙間から外を覗くと、衛兵たちの姿が見えました。
何人もの人間が行き交い、常にないほどの数の衛兵たちが、王子の宮を囲んでいます。部屋の外にもいつもの倍の衛兵がいます。
ものものしい雰囲気の中、当事者である王子だけがいませんでした。
先ほど国王からも面会の要請がありましたが、瀕死の重傷で治療中であることを理由に断りました。
その理由もいつまでもつか。
けれど、今は待つしかありません。それしか手立てがないのです。
「それにしても、白昼堂々と王子を襲うとは。やっぱりあの方の仕業ですかね」
外を眺めながらぽつりとつぶやきます。
「命まで狙うとは・・・でも、これも憶測ですからね。他の誰かであっても、証拠がないと断罪は出来ませんから」
カーテンを引き、再び椅子に座ろうとした時でした。
カタッ
隣の部屋から音がしました。
コーリウスはとっさに気配を完璧に消します。
(シェンナ様? 帰ってきた?)
この気配は王子のものでしたが、念のため、音をたてないように、忍び足でドアに近づきます。
「何か・・・がある・・・か?」
途切れ途切れに、王子の声が聞こえました。
よかった。間違いなく王子です。
誰かと話をしています。
コーリウスは、よく聞こえるように耳をすませます。
「もしかして、あの少女か?」
(少女?)
人の気配は一人だけです。
王子は誰と話をしているのでしょうか。
考えていたコーリウスは思い当たることが一つありました。
剣です。
寝室のサイドテーブルにあったはずの剣が、いつの間にかなくなっていました。
今は王子のそばにあるのでしょう。
その剣と話をしているようです。
(普通に会話するものなのですね。初めて聞きましたよ。剣の声は聞こえてきませんから、心話というものなんでしょうね)
コーリウスは、感心するようにその会話を聞いていました。
剣に意思が存在することは、王子に聞いて知っていたのです。
依頼されて出自も調べたのですが、はっきりとはわかりませんでした。
コーリウスはふと気づきます。
(そういえば怪我は?)
剣との会話は普段の王子と変わりはありません。
姿が見えなくなるまでの王子は、意識もあまりなかったはずです。
怪我も、すぐに回復するようなものではなかったはずなのに。
普段通りの王子で、いえ、前より元気になったような気もします。
(シェンナ様はいったいどこへ行ってきたのでしょうか。さっき少女と聞こえたあれは? まさか・・・癒しの聖乙女?)
コーリウスは思わず天を仰ぎます。
(こういう時に限って、いえ、こういう時だからこそ、ですか)
紅い瞳の王には、癒しの聖乙女と呼ばれる女性がそばにいる。
対というべき存在。
(シェンナ様には必要な女性ではないんですけどね。むしろ現れてもらったら困ります)
怪我は治っているらしいので、それは喜ばしいことですが。
王子以外の気配は感じないので、癒しの聖乙女を伴って帰ってきたわけではなさそうです。それが救いでした。
コーリウスは、そっと息をつきます。
『動乱の瞳』と呼ばれる『紅い瞳』を持って生まれた王子。
その瞳のせいで、どれだけ王子が心を痛めたのか。
強すぎる瞳は、人を恐れさせ、或いは人の欲望を掻き立てる。
軍神として称えられている三百年前の紅い瞳の王。
その王に王子を重ねる野心家の家臣達。
王子は侵略を望んでいないのです。
戦争など言語道断です。
勝手に期待されるのは、迷惑以外のなにものでもありません。
王子が望むのは、この国の平和であり、国民の豊かな生活と幸せです。
だからこそ『動乱の瞳』に躍らされるのではなく、しっかりと未来を見据えて行動していく。
そのための助力は惜しまないつもりです。
『命を懸けて王子を守る』
初めて王子を見た時から決めていたことです。
心優しい王子の望む未来を、幸せを。
どんな迫害をも排し、王として堂々と玉座に坐してもらうために。
コーリウスは、そっと、ドアを開けました。
これから―――
コーリウスの戦いも共に始まるのです。




