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「これをおにいちゃんにあげるね」
そう言うと、少女は手を刃のある方に持ち替え、持ち手を青年に向けて差し出す。
青年は恐る恐る、ソレを受け取る。
首切り包丁は、少女のいったとおり特殊な素材でできているらしく、フライパンよりもずっと軽いと感じたほどだった。
青年は首切り包丁を掲げ、少女に問いかける。
「どうしてこんなものをくれたんだい?」
「そんなの決まってるじゃない。それであたしの首を切ってよ」
やっぱりひとりで切るのは難しいからね、と少女は付け加えた。
青年は絶句する。
しばらく経ってからようやく
「うーん、僕はリョナプレイ(猟奇的行為)は趣味じゃないからなあ……」と困ったふうに答えた。
彼の目的は、少女の服と魂を切り裂くことだった。支配下に置いた少女の絶望した顔が、彼の性的快楽を満たすのだ。だが、四肢切断は彼の嗜好の範疇を超える。血など見たくもない。
目の前の少女はまったく怯える素振りもみせず、それどころか明るさに満ちた声で言った。
「ねえ、はやくあたしを殺してよ。神に選ばれたおにいちゃん」
「お、おまえは、死ぬのが怖くないのか?」
青年は気に食わなかった。少女が怖がりもせず、平気な顔で、上から目線でものを言う。
思いっきりいたぶって、痛みつけて、命乞いをさせたかった。
少女が泣きつかれるまで犯し続け、「お願いします。もうやめてください」と懇願させたかった。
彼のなかで、目の前の少女を支配したいという欲求がむくむくと大きくなった。
「死ぬの、怖くないよ。だって、あたしも、神に選ばれた人間なんだから」
「いいや、違う」
青年の低い声色に、少女は初めて驚いた様子を見せた。
「えっ、なんで? あたしはちゃんと……」
「残念だったね。神に選ばれたのは、僕ひとりだったのさ。お譲ちゃんは、ただのちっぽけな人間さ。周りに転がっている、"お友だち"のようにね」
青年はいつもの調子を取り戻す。そうだ、これでいい。
神に選ばれているとかどうとか、何のことやらさっぱり分からないが、少女は明らかに動揺している。
精神的に追い詰めて、絶望させて、あとでたっぷりと犯してやる。
くくく、なかなか攻略のしがいがあるじゃないか。自分の無力さを思い知らせてやる。
「い、いや……そんなの、ウソ、だよ」
「嘘じゃないさ。お譲ちゃんは神に選ばれてないから、死ぬことができない。試しにおにいちゃんが腕を一本、切ってあげようか。血が出て痛いだけで、いつになっても息絶えることはないんだから」
そう言って包丁を振り上げる。もとより、本当に切るつもりはない。心ゆくまで怖がらせてから、傷一つない綺麗な身体を隅々までしゃぶり尽くすのだ。
「い、いたいの……やだあ」
少女は後ずさる。
見た目から中学生のように思っていたが、今では泣きじゃくる小学生にしか見えない。
いや、こいつは最初からおかしな子どもだったが。
だがもしかすると、俺はほんとうに神に選ばれているのかもしれない。
今まで三十五人の少女を誘拐し強姦したが、警察はいまだに俺を見つけられない。
俺は選ばれた人間なんだ。
神の加護があるからこそ、誰にも咎められることなく、欲しいがままの快楽を手にすることができる。
そんなことを考えつつ、舌なめずりをして、青年はじわじわと少女を壁際へと追い詰める。