第1話 ?
「遅い…。」
気付けばもうアギが家を出てから20分。
アギはまだ帰ってこない。
ゆっくり歩いていたとしても10分で往復できる距離をなのに…。
リリアは心配に思い、家を出た。***
「ただいまー。途中リューイに会っちゃって…。」
アギが家に着くと、其処には誰もいなかった。
暖炉ではシチューが温められたままで、リリアの為ていたエプロンは綺麗に畳まれて机に置かれていた。
「リリア?」
もう日が落ちて、辺りは暗くなりだしたのに、出歩くなんておかしい。
村では夜出歩く事は禁止為れている上に、リリアは闇が苦手だった。
すぐに帰ってくると思い、アギは彼女の帰りを待つ事にした。
夜が明けてもリリアは帰らなかった。
次の日も、その次の日も彼女は帰らなかった。
夕食の支度を残したまま、彼女は消えたのだ。
アギは独りになった。
見つかったのは其れから4日後。
あまりに無惨な姿だった。
彼女は全裸だった。
体のあちらこちらに傷があり、腹や首には深く何度も刺された痕があった。
手首にはきつくロープか何かで縛られた痕がはっきりとついていて、彼女が必死に抵抗為たことを物語る。
どれ程怖かったことだろう?
どれ程痛かったことだろう?
何の罪もない者が何故死ななければならない?
アギは睨みつけた。
人を嘲笑い、見下すような真っ青に晴れ渡った空を。
━━神なんていないんだ。
信じるだけ、祈るだけ無駄な事なんだ。
涙は流れなかった。
唯心だけ痛んだ。
其れはアギが13歳の時の事。
全てのモノに神が宿ると考えられる国で育ちながら、全く神を信じる事ができなかった少年は誰も引き取ろうと為なかった。
神を信じぬ者に救いなどないのだと…。