第1話
サァ―…サァ―… 風が吹き、野がユラユラと揺れていた。
太陽の色と同じ朱に染まったそれは、余りに美し過ぎて人々に畏怖の念すら感じさせる。
「血みたいだ…。」
ポツリと漏らしたのは少年だった。
少年も夕陽の朱に染められ、自身も黄昏の一部となっていた。
その子の名をアギ・アイリス・イリシアと言う。
今は燈色に染まる髪は、この地方では珍しい灰色で、瞳は感情によって変化する青灰色。
背は同年代の少年に比べると少々低く華奢で、とても整った造形の少年だった。
「アギー?」
遠くで養母の声が彼を呼び、彼はその声に応え風の吹く丘を去った。***
「リリア、今日のご飯何?」
コトコトコトカタカタカタ料理を作る小さな音がやけに大きく聞こえる。
「ん?今日はシチューよ。あっ、河原から水汲んできてくれない?」
音が大きく聞こえるのは、この家に二人しか居ないから。
リリアはアギの伯母だ。
リリア・フィレッツ、黒髪に黒い瞳の村で一番美人と評判な彼女は未亡人である。結婚一年で夫を亡くしているのだ。
「分かった。そのかわり、肉いっぱい入れてくれよ。」
「はいはい。」
アギはリリアの言葉を聞き、満足そうに笑い家の扉に手をかけた。
「気を付けて行くのよぉ?」
背中にはリリアの声が為ていた。
アギは分かったと応え、家から3分程の位置にある河原に向かった。
駆け出した空にはもう星が瞬き冷たい闇が辺りを覆いだそうと為ている。
━━夜がくる。
愕然と皆に恐怖を与える闇がすぐ其処まできているのだ。
後一刻もすれば完全な夜がくる。
リリアの急ぎなさいと言う声が小さく聞こえた。
闇は迫る。
闇は黒の世界
光は白の世界
黄昏と藜明は白と黒との境界
ココからは闇が支配する。
汝、光を愛せ
汝、闇を憎め
汝、神に祈れ
神様なんて居ないのに。
居るのは自分
信じ、頼り、戦い、耕し、育む。
全て自分達が成す事。
祈りなど無駄なだけ。
神なんて架空の存在は救ってやくれない。
自分達で成すしかないのに―…‥。
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