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屠殺園

作者: 床に落ちた縮れ毛マイスター
掲載日:2026/10/26

箱のなかで飼われた豚はよお、てめえが豚であることを知らねえんだわ


ジェイは普通に水を飲んでいた。


その水は、分子でできている。

重くもなく、軽くもない、ただの水が連なったものを、飲む。


喉を鳴らすとはどういうことなのか、お前は考えたことってあるのか。


喉が鳴るように聞こえても、実際は震えているのは空気じゃないのか。


ジェイはコップが見当たらなかった。

元々コップなんて概念がこの世に生まれる前から、ジェイは手で水を掬うよりも早く唇を直につけたほうが高効率であると理解していた。


だが手で掬うのは珍しくはない。

高効率であることを必要としていないときだってあるんだ。


ジェイよ、大きくなったら何になりたいのか。

そう問屋に聞かれたときに、流れるプールの中で流されていく自分の身を不自然に沈めようとする。


ジェイを取り巻く水という水は、渦巻き轟き蠢いては絶えずそこにあり続けた。


もしもジェイが水ならば、ボクは此処だよとでも言い張ろうか。


それって宇宙から見たときの人間の呟きと同じだというカラクリに気付いてしまうことがなお辛い。


しかし、豚はあくまで豚だ。


桃色のお尻をプリプリとさせているのは漫画の世界だけで、豚の肛門に生えた毛をつぶさに観察することで、その悪臭と、倦怠感と、敏捷性を垣間見ることができないわけではないのにだ。


豚として生まれたのに、豚というカテゴリーに属されて、いやいや勝手に決めてんじゃねえよと、図鑑を喜んで印刷する出版社へ殴り込みに行こうかというところ。


もしもアンケートに、複数回答可という設問があって、その選択肢は十個もあるとして、百人が票を投じたり、破棄したりするときの、アンケートの脆弱性を予め検証するようであれば、わざわざかしこまった説明などして、恣意的だなんて異を唱える者をも完封してしまうことなんてしなくてもいいんだよね。


例えば、夏休みはどこへ行くのか。

という問いが立てられたとしようか。


海


山


家


その他


一人当たり四票入れられるわけよ最大で。

最小は一票としようか。

それで組み合わせ的にはどうなるのだろう。


百人いたらどうだろう。

重みが変わってきてしまわないか。


だけど、山と家がそれぞれ四十票だった。


それで男女で比べたらどうか。


男は変わらず、山と家が四十票。

女は山が六十票。


どうする。


どれがいい。


山で良くないか。


もしも女が、海五十九票、家五十九票だったら。

男が海零票だったなら。


こんなことを考える必要なんてあるのかどうか。

多分ない。


アンケートを回収した組織だけが分かることだ。


ジェイには無関係なとこだった。


ジェイはエイとビーとは上手くやれている。

シーとデーとは上手くやれていないわけではないけれど、積極的に話すほどでもない。


するとジェイは協調性がないらしい。


シーとデーとも、もっと会話しなさいと、反省なさい、と。


ジェイはそれでも良かった。

協調性がないという烙印を捺されることに、とくに異存はありはしないようだ。


ジェイがシーと話していないということは、シーもジェイと話していないからだ。


それをジェイは知っている。


だからシーはジェイと話さなくても許しを得ている理由だけは見つからなかった。


何かのせいにするのは簡単だ。


豚が餌に群がるのは腹が減るからだ。


腹が減ることに疑問を抱えていたのでは、餌箱は空になってしまう。


そして空腹とは何かを考えている間に餓死してしまう。


ジェイはそんな豚を信用する。


信用のできない豚とは、過去を断罪する豚であり、かつまんまと己がその罠にかかっていることを知らない、或いは知ろうとしない、または知っていてなお豚であり続ける豚のことである。


みんなが餌箱に突撃していく。

そしてそれを真似る。

実はその先には生後間もない赤子がいたとしても。


みんなやっていたから。


おい、豚野郎、周りに合わせることでヨガってんじゃねえよ。


イエスイエスを振りまいて、そのうちにイエスの意味さえ忘れて。


人間はどこまでいっても変わらないもんなのね。

ホロコーストとか嫌悪感示す割には、前ならえ、で自然と手を差し伸べるんだろう?


何かに縋るのは簡単だ。


縋ることが目的化して、すんごく気持ちぃくなれちゃうんだからね。


なぜ縋るの。


それさえ思い出せない距離にまで、豚の心臓は到達する。


どくどくどくどくどくどくどくどく。


鼓動が猛毒の刃となって、全身を脈打つんだぜ。


ハッピィセレブレーション、ファッキンガイズ

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