第8話:静かな夜
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その夜、柳達は院長の好意により魔術学院に泊まることになった。
柳はまだ暗い夜中に借りている部屋から抜け出して学院の屋根に上って座り込んでいた。
「静かな夜だな………」
「そうだね」
答えは無いと思っていたものだからその返答の声に驚き、柳は後ろを振り返った。
そこには部屋着姿の稜基がいつの間にかしゃがみこんで座っていた。
「稜基……いつの間に―――」
驚いている柳の質問には答えず、稜基は静かに呟いた。
「僕、気になることは相手の気持ちを考えないで訊いちゃうんだ。いつもいつもやめようと思ってるのについついやめられなくて。たまに自分が嫌になるよ」
稜基の言葉を柳はただただ静かに聴くことにした。
「僕、今は一人で村に住んでるから……ちょっと寂しいのかもね。たまに家族が帰ってきたときぐらいしか訊きたいことを訊く機会がないし。だから一度にたくさん訊いちゃう癖がついちゃったのかな………?」
「………そうかもな」
柳は微笑した。稜基はくすっと笑った。
「ちょっとぐらい否定してよ」
「嘘をつく趣味はない」
柳は空を見上げた。幾つもの星々が煌めいている。
「お前の質問する癖は俺はいいと思うぞ」
「何で?」
稜基は少し驚いた表情をしていた。柳は笑いながら言った。
「だって、お前が人のことを訊きたいと思うのはその人に関心があるからだろう? よく知りたいと思っているからだろう? そういうのは大切だと思う。外見だけで人を判断するよりいい。その人の本性が分かるだろう。俺はさ、大人になってもこういう忘れちゃいけないこと全部、覚えていられるよう願いたいよ」
「………変わらなくてもいいのかな?」
「追いつめるような質問はやめたほうがいいけどな」
「む………」
言葉に詰まる稜基に柳は苦笑した。稜基はやがて吹き出すように笑うと頷いた。
「そうだね。僕も忘れちゃいけないことは全部覚えてたい。―――ありがとう、柳」
「ああ、どういたしまして」
笑顔で言うと稜基は「先に寝る」と言って部屋へと戻って行った。柳はそれを見送ると再び星空を見上げた。
「全てが円満に終わるといいが…………」
柳の呟きは闇の中に消え入った―――――。