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Desire  作者: 那泉織
3/22

第2話:柳

***




 少年が静かに目を覚ますと白塗りの天井が視界を塞いだ。


(ここは何処だろう………?)


 戸惑いながら身体を起こすと目に入った扉が開き、一人の少年が部屋に入ってきた。

 彼は少年の様子に気付くと柔らかく微笑み、少年の座っているベッドの近くの椅子に腰掛けた。


「良かった。気がついたんだね」


「お前は………?」


「僕は稜基(りょうき)。稜基・アルディラージ。君、この近くの川の岸辺で倒れていたんだ。ずぶ濡れだったから川を流れてきたんだと思うんだけど………」


「川…………」


 少年は稜基の言葉を受け記憶を辿ろうとするが何も思い出せなかった。


「君…………名前は?」


「俺の名…………?」


分からなかった。思い出そうとしても思い出せない。


「俺は――いったい何者なんだ…………?」


「…………記憶を無くしたの?」


「そう、みたいだ…………」


 答えると同時にとてつもない不安が少年を襲った。

 稜基は少年の答えに表情を一瞬暗くしたがすぐに微笑を浮かべる。


「大丈夫だよ。もしよかったら記憶が戻るまでこの家に居てくれたらいいから…………。僕も手伝うよ。でも、名前がないと不便だね…………。呼び名を決めてもいいかな?」


 断る理由も特になかったので、少年はすぐに頷いた。

 稜基は少し考える素振りを見せ、やがて口を開いた。


「ヤナギ…………、(やなぎ)ってどうかな?」


「柳…………?」


「そう、君を見つけた場所の近くに柳の木があったんだ。だから――」


 稜基はぱっと思いついて言っただけなのだろうが少年は素直に喜ぶことができなかった。

 何故なら柳の木と言われて思い出すのはあの細い枝と葉である。

 少年はその弱々しい様を脳裏に浮かべ喜べなかったのだ。


 しかしそんなことなど知らない稜基は満面の笑みを浮かべ、言った。


「柳って枝は細いし弱々しく見えるよね?」


 少年はどきっとした。まるで少年の考えていたことを見透かしたのかの様に稜基は少年の思っていたことを言ったからだ。


「でも、僕は柳って強い木だなって思うんだ」


「何故?」


 少年は思わず訊いた。

 稜基は柔らかい表情をして答えた。


「柳の枝はちょっとの風にでもなびくけど――どんな強い風に吹かれてもまた、元通りになるでしょう?」


 その説明を聞いて、少年は少し驚く。そして柳という名を先程とは違っていい名前だと思った。その名前が嬉しいと感じた。


「うん、柳か………気に入った」


「本当?」


「ああ、ありがとう」


 少年は微笑して礼を言った。それに稜基は嬉しそうに笑う。

 こうして少年の呼び名は柳となった。


 柳はしばらく稜基を見ていたが疑問が浮かび口を開いた。


「そういえばここ、お前の家なのか? 何て言う場所?」


「ここは緑の大国ナチュラニアのフォート村。産業大国アドレティリアとの国境付近だよ。―――だから君がアドレティアの人の可能性もあるけど…………」


「―――アドレティリア、か」


 柳が呟くと稜基は不思議そうに柳を見た。柳は疑問にそれを思って訊いた。


「どうかしたか?」


「えっ? あ、いや………記憶、無いんだよね…………?」


 柳はようやく合点がいった。


「ああ…………、このティレイシアの地理とか、…………自分の正体以外のことは覚えているみたいだ。もしかしたら何らかのショックで一部分だけ記憶が無いんだと思う……………」


「そっか…………」


 稜基の少しがっかりとした様子に柳は慌てて言葉を探した。


「わっ、忘れてるのは一部分だし多分このぐらいならすぐに思い出せる………と、思う。お前が悲しまなくていい」


「でも………」


「あっ、そうだ。もしかしたらお前が俺を見つけてくれた場所に記憶の手掛かりがあるかもしれない。――道案内してくれないか?」


 柳は自分は何をしているんだろうとと思った。

 今日初めて会った人間にこんなに気を遣うとは。

 しかし、人が困った顔をするのは見たくないとは感じた。なら、それでいいのだろう。


「……………うん、分かった」


 稜基が再び微笑を浮かべた。

 柳はほっとして自分も微笑を浮かべた。やはり安心する――。


「あ、手掛かりといえば………」


 稜基が何かを思い出し、近くの机の上から何かを手に取る。


「はい、これ」


「………なんだ?」


 手渡されたのは細かい細工のされた中央に虹色に輝く石がはめ込まれたペンダントだった。


「それ、君が倒れていた近くで拾ったんだ。多分君のじゃないかな?」


 柳ははっきりと思い出せないものの、それが自分の物だということは思い出す。

 柳はそのペンダントを自分の首にかけた。


「ありがとう。…………連れて行ってくれ」


 稜基は頷き、二人は外へと出掛けた。








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